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ニュース〜医療の今がわかる

谷川武・筑波大学大学院助教授インタビュー

――確かに大変な数字ですね。

 たとえ事故を起こさなくても、患者本人の循環器疾患のリスクも上がります。これは特に交代勤務者で顕著です。我々の研究で、SASと交代勤務をオーバーラップさせると、見事に高血圧と相関することが分かりまして、アメリカンジャーナル・オブ・ハイパーテンションに投稿したところ、エディターがわざわざ1ページの解説を書いてくれました。それくらい注目されているんですね。

 日本は先進国で、幸か不幸か電気によって夜でも社会生活を営めるために、人口の20~25%が何らかの交代勤務に就いています。ただでさえ睡眠の質が低くなって疲労をためがちなうえにSASが加わったら一体どうなるのか、これから交代勤務経験者たちが高齢化してきた時に恐ろしいことです。

――深刻な話のわりに社会的な意識は低いかもしれません。

 情報が行き渡っていないのを感じます。5月に朝日新聞で我々の簡便な検査法が紹介されたら、わっと500件申し込みが集まりました。しかも驚いたことに、SASになりにくいというのが定説の女性の方からも重症SASが多かったんです。確かに、最近の小顔な人たちはリスクが高いのかもしれません。

 ただ男性の申し込みが少ないのは別の理由もあるように思います。なんともアホなことに、SASと診断されてCPAPをつけていると損害保険に入れないのです。すると職業運転手はどうしますか? SASを隠して保険に入る人、勤務する人が続出するに決まっているんです。そちらの方がよほど危険です。

 SASと分かったら差別の対象になるから、治療する患者さんが増えない、ここにメスを入れないといけません。近視の人がメガネをかけたら運転できるように、SASの人もCPAPを付けたら運転OK、つけなきゃダメにすべきなんです。実際、パイロットに関して国交省がそういう扱いにしています。治せるのに差別して隠させるなんて具の骨頂です。

 自分はSASじゃないからいいや、と思ったら大間違いです。SASで居眠り運転する車の事故に巻き込まれるのは、あなたや家族かもしれません。だから、一般の人にこの危険性をもっと知ってもらいたいですね。

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