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ニュース〜医療の今がわかる

小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長インタビュー

――本では医療崩壊を起こさないための具体策も提案されていますが、その方向へ流れが付けられそうでしょうか。

 本の中では、公的な医療事故調査機関と公平な補償制度、安全を目的とする行政処分制度の整備を提唱しました。ですが実は今、こうした制度が整備されたとしても、医療の崩壊は食い止められないのでないかと考えています。医療従事者が病院から立ち去る原因となっている社会からの過剰な攻撃は、制度整備してもなくならないのでないかと感じているのです。

 ハナ・アーレントがナチによるユダヤ人攻撃について考察した「全体主義の起源」という本があります。その中でアーレントは、トックビルの大発見を紹介しています。フランス革命のはじめに突然、堰をきったように、大衆が貴族を攻撃し始めました。革命の時点で貴族は既にその権威を失っており、貴族による抑圧や搾取はまったく存在しなかった、むしろ誰の目にも明らかな権力喪失が民衆の憎悪をかきたてた、というのです。

 イギリスで医療従事者が暴力に晒されているのも同じ構造に見えます。これが民主主義の普遍的に内在する攻撃性だとすると、むしろ医療側が努力すればするほど、攻撃を促進させ崩壊を早める危険があると思います。

――これまた驚くような指摘ですが、その可能性を念頭に行動した方が良いのかもしれませんね。とはいえ医療が崩壊して困るのは患者なので、患者がこの状況に対して何かできることはないでしょうか。

 残念ながら個々の患者さんにできることは、それほどないように思います。ただ、状況を正しく認識してほしいと思います。冷静な認識が社会の常識になれば、現状を大きく変えることができます。

 実際に、攻撃的な患者さんばかりではありませんし、むしろ攻撃的な患者さんや家族は一部です。しかし、その一部の攻撃的な人をたしなめる人もシステムもないのが現状です。それどころか、医師は、メディア、司法が、このような攻撃に加担しているように感じています。このため、一部の人の攻撃だけでも医療従事者の士気を失わせるに充分なのです。

 本来は、メディアがこうした問題を指摘し、冷静な議論の場を提供すべきなんでしょうが、事実に基づくのではなく感情を前面に出した議論しかしないものが多いですよね。この本を読んだ記者たちは一様にメディア批判を重く受け止めてくれたようですが、メディア全体から見ると少数派でしょう。

 医療界だけでなく社会全体から相当の立場の人が集まって、しかもオープンに議論しないと、この流れは行くところまで行ってしまうような気がしています。

(略歴)
49年、香川県生まれ
74年、東京大学医学部卒業
83年、山梨医科大助教授
99年、虎の門病院泌尿器科部長

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