与謝野馨・前内閣官房長官・インタビュー
――国民の割り勘、それは保険でしょうか、税でしょうか。
保険だろうと税だろうと、国民の財布から出ることに変わりはないのであって、区別するゆえんはマクロ的にはありません。ただし保険料でないと医療費と自分の払ったお金との間に一対一の対応関係がなくなるので、税にすると医療費との関係が薄まっちゃうという危険性はあります。
――下世話な感覚では、保険料だと厚労省所管だし、税だと財務省所管だなと考えてしまうのですが。
それは関係ない。お金が余っている状況ならともかく、足りないのだから。
――話を戻しまして、開業医の収入を下げると、勤務医が将来に希望を持てなくなるという説もあるのですが。
簡単ではありません。開業医の方が素晴らしい医療を行っていること場合もあるし、個別のケースによって異なる。しかし少なくとも、勤務医の給料を少し上げておかないといけないのでないかとは思います。とはいえ、勤務医も給料だけではなく、社会的使命などを喜びとして感じているのではありませんかね。
――先ほどのお話では、2%は自然増するということでしたのに、社会保障関係費の伸びにはシーリングがはまってます。
まず無駄を何とかしないといけない。そんなに金額があるのか分かりませんが、終末医療とか慢性疾患とか、お金のかけ方を見直した方が良さそうな分野はいろいろあります。そういうところから始めて、保険ではなく自己負担してもらった方がよい部分はあると思います。いずれにしても、これからの精査ですよ。
――ロハス・メディカルを読んでらっしゃる患者の皆さんに対して言いたいことがありましたら。
日本の医療は世界レベルに達しています。非常に特殊な分野、実験的なもの、アメリカなどで先進的に行われているものは除き、どの県に住んでいようが高度な医療を受けられます。がん治療のようなものには、東京から導入が始まって、地方へ波及するタイムラグがありますけれど、そんなに大変じゃない。格差があるのは、特殊な分野のことです。
そういう前提で、患者にとって大事なのは医師を信じることだと思います。ただ、信じる前にもう一人別の医師の意見を聞きたいと思うのは自然なことで、昔は遠慮もあったようですが、今はむしろ医師からよく尋ねていただきましたと感謝されます。だからセカンドオピニオンも取ればいい。そのうえで信じることが大切です。
ここで言う「信じる」とは、医療は事実に基づいているのだから、どんなに難しい病気であっても、民間療法よりはいいということです。この水がいいとかキノコが効くとかありますよね。趣味や精神安定剤として飲むことまでは否定しませんが、医療の方がはるかに事実に基づいているのだということを忘れたらいけないと思います。もう一つの意味として、「信じる」とは、治るんだ、治すんだという気持ちを持つことでもあります。患者の気の持ち方と結果との相関に関しては世界各国で研究が行われていて、強い気持ちを持った人の方が治癒率は高いはずです。治すという気持ちを捨てないでくださいと申し上げたい。あと、もう一つ自分の病気について勉強すること、これも大事ですね。
――最後に医療者に言いたいことは。
患者を実験台に使っちゃいけないということですね。できもしないのに内視鏡で手術をやったというのがあったじゃないですか。ああいうことはあってはならない。医療者にはモラルが求められると思いますよ。
(よさの・かおる)1938年東京都生まれ、63年東京大学法学部卒業。サラリーマン、中曽根康弘氏の秘書を経て、76年衆議院議員、当選9回。文部大臣、通産大臣、自民党政調会長、経済財政兼金融担当大臣、党税制調査会長を歴任。党財政改革研究会会長。
(このインタビューを抄録したものが、『ロハス・メディカル』08年1月号に掲載される予定です)
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