医師の勤務状況、1年前と「変わらない」49.8%
■「勤務医の環境の深刻さを裏付けている」
中医協の会長を務める遠藤久夫委員(学習院大経済学部教授)は「非常に詳細な調査なので、診療報酬の改定のみならず医療政策に幅広く活用できるものもある」と評価した。
その上で、「かなり細かく質問しているので、やや"木を見て森を見ず"的になってもいけない。『診療報酬改定の結果を検証する』という視点から、やや幅広めに意見を述べる」として、▽医師の勤務状況の変化▽改定による効果▽問題点―の3つを指摘した。
医師の勤務状況の変化では、1年前と比べて「改善」「どちらかといえば改善」の回答よりも、「悪化」「どちらかといえば悪化」の比率が高かった点を指摘した。
「今回の調査は、3つの加算を得ることができた病院を対象にしている。しかし、そのように医療資源が比較的充実していると思われるような病院であっても、このような結果になっているということは、勤務医の環境の深刻さというものを裏付けているのではないか」
その上で、「この問題は診療報酬のみで解決できる訳ではないが、診療報酬改定の目的の1つとして、勤務医の環境改善を続けるべきであるということを今回のデータは示している」と述べ、病院勤務医の負担軽減策を次の診療報酬でも講じる必要性があることを示唆した。
遠藤委員はまた、勤務医の業務負担を軽減する対策を取っているかを比較して業務負担の変化を調べた項目を挙げながら、「さまざまな施策に取り組んでいる病院の方が、数パーセント、負担軽減の比率が高いとのことだが、あまり大きな差はない。トータルに見ると、あまり大きな差に表れてこない。今後、勤務医の負担軽減をどのような形で考えるべきか」と述べ、改定の効果が全体として見えにくいことを指摘した。
さらに、「入院時医学管理加算」「医師事務作業補助体制加算」「ハイリスク分娩管理加算」の3つのうち、「入院時医学管理加算」の届け出をしている病院が74施設と、他の2つに比べて少ないことを挙げ、「要件が適切だったのかどうかを議論する必要性がある。基準をクリアできなかった理由は何か、『満たすことが望ましい』とされる(アからカの)6つの要件のうち、何が引っかかっているかを考えることも重要だ。残念ながら、今回の調査からは浮かび上がってこない。いずれにしても、対象となるべき医療機関をもう少し増やすことを考える必要がある」と苦言を呈した。
遠藤委員は最後に、「医師の業務負担の軽減を診療報酬だけでやるのはなかなか難しいが、それでも診療報酬改定の重要な目的の1つになる」と述べた。
業務負担が改善していないことについて、小林麻理委員(早稲田大大学院公共経営研究科教授)も、「(改善していないという)調査結果と、要因分析とをクロスしたような検討はされたか」と質問した。
調査検討委員会で会長を務める白石委員は「そこまでの分析はできていない。患者が増えたという原因もあるし、病院の医師数の問題(医師不足)もあるだろう。そこまで深い分析はされていない」と答えるにとどまった。
白石委員はまた、医師への経済面での処遇が改善していないことについて、「施設調査では半分が『改善した』と回答しているのに、医師調査では、『増えた』との答えは12.0%。施設調査の結果と、医師自身が感じている経済面での処遇改善状況とは差があるということが調査検討委員会でも話題になった。(医師の)報酬が増えたというよりは、病院全体で広く薄く配分された可能性もある。報酬を直接上げるよりは、体制や分担などの取り組みが実は重要ではないかとの意見もあった」と述べた。
■調査は、「少し物足りない」
3つの加算を取るための基準についても議論になった。牛丸聡委員(早稲田大政治経済学術院教授)は「3つの加算がどのような効果をもたらしたのかを知りたいが、そのような項目がない。少し物足りない」と不満を表した。
その上で、質問票に「具体的な問題・要望等がございましたら、ご記入ください」という自由記述の質問があることを指摘し、「ここに得るものがあるのではないか?」と質問した。
厚労省の担当者は、「手元にあるのは、課題や問題点に関する(回答の)資料なので、『効果があった』と書かれた回答があったかどうかは確認できない」と困惑。3つの算定を届け出なかった理由については、自由記載の回答を紹介した。
それによると、「入院時医学管理加算」では、▽全国一律の基準ではなく、過疎地域には基準を低くしてほしい▽「転帰が治癒であり、退院の必要のない患者数が4割以上」という条件がクリアできない▽全身麻酔で手術を実施した患者数が年800件以上の要件がクリアできない―などの回答があった。
「医師事務作業補助体制加算」では、▽診療報酬が(割に)合わない▽算定の対象を広げてほしい▽(緊急入院の要件の1つである重症患者の)病名を拡大してほしい▽業務範囲が明確ではない―など。
「ハイリスク分娩管理加算」では、▽診療報酬の引き上げを希望▽適応対象となる分娩を拡大してほしい▽算定要件を緩和してほしい▽正常分娩時の算定を認めてほしい▽医師の処遇改善に結び付いていない―など、現行の基準が厳しいことを指摘する意見が多かった。
意見交換を受け庄司部会長は、「今日は自由記述の部分が報告されなかったので、今後はこれも議論の材料にしていきたい」と要望。今後については、「本日の意見を踏まえ、調査検討委員会で報告書案をまとめ、検証部会で承認した後、中医協総会に報告する」と述べた。