「緩和ケア必要な子ども、6割はがん以外」-日本小児医療政策研究会
緩和医療というと一般的に成人のがんに対するターミナルケアという印象が強いが、子どもの場合になると、約6割が脊髄性筋萎縮症などの神経筋疾患や18トリソミーといった先天性の染色体異常などの進行性で障害を伴う病気だという。成人に対する緩和医療も発展途上の段階で、まだまだ知られていない小児緩和医療。日本小児医療政策研究会での報告を聞いた。(熊田梨恵)
6月27日に都内で開かれた、小児科医や新生児科医らが小児医療の政策について議論する「小児医療政策研究会」(大会長=藤村正哲・大阪府立母子保健医療センター総長)。今回は海外の小児医療政策をテーマに様々な報告が行われた。
この中で、大阪市立総合医療センター緩和医療科医長の多田羅竜平氏が、病気の子どもに対する緩和医療について報告した。多田羅氏は、神経筋疾患や代謝性疾患、重度脳性麻痺や小児がんなど生命に影響を及ぼす重症疾患を持つ子どもが1万人に12人の割合で存在し、死亡率は1.5-1.9人とする疫学調査を紹介。このうち、小児がんは約4割程度で、過半数はそれ以外の脊髄性筋萎縮症など神経筋疾患やムコ多糖症などの代謝性疾患といった障害を伴う進行性の疾患だとした。
多田羅氏はこうした疾患を持つ子どもたちに対して、体の痛みだけでなく治療や検査に対する精神的な苦痛、いじめから来る苦しみなどに対処していく必要があるとして、小児緩和医療の重要性を訴えた。病気の子どもを在宅で支えるための政策を展開している英国では、小児がんの子どもの在宅死亡率が約80%と紹介。ホスピスで家族が休息できるレスパイトケアを行ったり、子ども病院から小児疾患専門看護師が派遣されたりしているとした。病気の子どもは在宅で家族と暮らし、専門知識を持つ小児科医や看護師などのスタッフから医療を受けられる権利があると主張した。
多田羅氏の報告内容を紹介する。以下は発言内容。
緩和ケアは、あまりなじみのない言葉かもしれないが、成人領域においてはがん対策基本法やそれに基づく基本計画などを通じて、がん領域で近年急速に普及している領域。小児においてはほんどそういう活動が始められていないというのが現状。小児緩和ケアとはどういうものなのかという概略を話す。
小児緩和ケアは、「生命を脅かす疾患を持つ子どものための緩和ケアとは、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな要素を含む包括的かつ積極的な取り組みである。それは子どものQOLの向上と家族のサポートに焦点を当て、苦痛を与える症状の管理、レスパイトケア、終末期のケア、死別後のケアの提供を含むものである」(A Guide to the Development of Children's Palliative Care Services, ACT/RCPCH 2003)と定義されている。
これは、実は大人の緩和ケアと定義的には全く同じ。子どもにおいてどういうことが異なってくるかというと、最初に「生命を脅かす疾患」という言葉を出した。小児においては、大きく4つのカテゴリーに分かれる。
▽根治療法が功を奏しうる病態(小児がん、心疾患など)
▽早期の死は避けられないが、治療による延命が可能な病態(神経筋疾患など)
▽進行性の病態で、治療は概ね症状の緩和に限られる病態(代謝性疾患、染色体異常など)
▽不可逆的な重度の障害を伴う非進行性の病態(重度脳性まひなど)
一つ目は根治療法が功を奏しうるが、もし治療がうまくいかなければ死に至る疾患。小児がんや重度の心疾患。二つ目と三つ目は非常に似ている。進行性で早期の死は避けられないが、神経疾患で人工呼吸器などがあれば随分延命を図れるような状態。進行性で治療は概ね症状の緩和に限られる病態。医療が進歩しているので、二つ目と三つ目を分けるのは困難。主にムコ多糖症をはじめとした代謝疾患や、致死的な染色体異常などがここに含まれてくる。四つ目は、必ずしも進行性の病気ではないが、重度の神経障害を伴うために、さまざまな合併症において、早期の死の可能性が高くなっているような子どもたち。重度の脳性麻痺などがこれに含まれている。この大きく4つに分かれるのが「生命を脅かす疾患」に含まれるもの。
緩和ケアと言うと、大体がんとターミナルケアを想定されるが、実はさまざまな疾患が対象となっているというのが特徴として上げられる。ではこの「生命を脅かす疾患」というのが子どもたちにどの程度いるのかという疫学的な話。いろんな国のいろんな地域で調査をされてきているが、概ねこの辺り。
有病率:12人(10000人当たり)
死亡率:1.5-1.9人(年間10000人当たり)
1000人に1人、1万人に10人強ぐらい病気の子どもたちがいるといわれている。その10人に1人から2人、1万人に1.5-1.9人程度が毎年亡くなっている、と言われている。成人から見ると人数的には低いが、小児から見ても決してゼロではない、少なくない数字だと思う。この辺りを大阪府に当てはめてみると、170万人の子どもがいるが2000人強の子どもたちが生命を脅かす疾患にかかっている。そしてその半数が緩和ケアを必要としている。1000人程度だと思ってほしい。そして1年間に300人弱が死亡し、その4割程度が小児がん。逆に言うと、半数以上が生命を脅かす疾患。半数以上ががん以外の子どもたちと考えられている。