「緩和ケア必要な子ども、6割はがん以外」-日本小児医療政策研究会
■緩和医療は「全人的苦痛」へのケアを提供
緩和ケアはいつ始まるのかということだが、古くはこの言葉がよく言われた。「この子はまだ抗がん治療が効いているので緩和の時期ではないよ」と。近年は成人、小児においても緩和ケアは必ずしも根治的治療を失った時点で導入する種類のものではなく、苦痛がある限り提供されるべきだと。それは診断時から死後の家族のケアまで継続して行われる治療と並行しながら進めていかれるべきものと今は考えられている。私も小児緩和ケアをやっているが、抗がん剤治療の中で生じてくるような疼痛とかメンタルな問題とか様々な症状に一緒に関わっているという形。
私は「苦痛ある限り」、「苦痛」と言った。普通英語では一般的に「ペイン」と言われる。緩和ケアの領域においては、「苦痛」はトータルペインという概念で理解されている。近代ホスピスを始めたシシリーソンダースが提唱した概念。大きく4つの苦痛からなる。身体的、精神的、社会的、スピリチュアルな苦痛、少し聞き慣れないかもしれないが、この4つの苦痛を合わせてトータルペインという概念で考えられている。
身体的苦痛としては疼痛、苦痛、けいれんなど色々な身体的な苦痛がある。そして精神的な苦痛としては、成人以上に子どもにおいては、病院生活そのものが苦痛。大人だと「自ら入院させてくれ」と来る患者さんが結構いるが、子どもで自ら入院させてくれというのはそんなにいない。入院そのものが子どもにとってはストレスになっているということ。そして精神的負担になっているということ。入院中の子どもに何が一番つらかったかとアンケート調査をすると、3分の1ぐらいの子どもが「検査が一番つらかった」と言ったりする。検査や治療が嫌で暴れる大人はあまりいないが、(子どもには)押さえつけて検査してきたという小児医療の問題がある。子どもも鬱の状態になることもある。子どもたちの問題となってくるのは病気や治療について十分な説明をされないまま入院生活を余儀なくされるので、この治療終わったら退院させてもらえると聞いているのに自分の将来や日常生活に対する見通しが立たず、成人以上に不安を持つことがあると考えられる。
さらに、社会的な苦痛問題としては、学校に行けないというのは子どもたちとの交流や勉強できないということで非常に問題になる。さまざまな病気によるハンデキャップは進学や就学、就職といった問題で、必ずしも自分の希望に応じたステップアップができないという問題が出る。そういうハンディキャップは差別やいじめ、端的に言うと抗がん剤で髪の毛が抜けると「ハゲ」と言われるようないじめの問題が日常的に起こってくる。こういう社会、人間関係の中で生じてくる苦痛が病気の子どもを苦しめているのはみなさんご存知と思う。
スピリチュアルな苦しみというのはなじみがないかもしれないが、これは宗教的なあるいは哲学的な形而上的なというか、答えのない苦悩のようなもの。大人なら「死んだらどうなるだろう」とか、「なぜこの私がこのような病気にならないといけないんだろう」というようなそういうもの。子どもだと例えば、「お母さんの言うこときかなかったから罰が当たったんだろうか」とかそういうことも含めて、「死んだらどうなるんだろう」とか、哲学的な苦痛。こういったものを合わせて「全人的な苦痛」という。緩和ケアはこういったトータルペインに対してサポートしていく取り組み全体を表している。