「診療ガイドライン」めぐり議論沸騰 ─ DPC評価分科会(7月6日)
全国どこの病院でも同じような水準の医療を受けられることは患者の立場からは望ましい。しかし、関係学会などが示す指針(ガイドライン)の厳密な順守を求めることに対しては、「医師の裁量権を奪う」など否定的な意見もある。厚生労働省はむしろ、「診療ガイドライン」よりも「クリティカルパスの公開」に関心があるようだ。(新井裕充)
中央社会保険医療協議会(中医協)のDPC評価分科会(分科会長=西岡清・横浜市立みなと赤十字病院長)7月6日に開かれ、「診療ガイドライン」をめぐって議論が沸騰した。
2010年度の診療報酬改定では、病院の機能によって診療報酬に差を付ける「新たな機能評価係数」が導入される。このため、同分科会は昨年から議論を重ね、候補を10項目に絞り込んだ。このうち、「次期改定での導入が妥当」としたのが4項目で、「データ分析または追加調査をすべき」としたのは6項目。
既に"落選"した項目には、医療安全体制や地域医療支援、手術の症例数など、患者の立場から見れば重要と思われるような病院の機能が多数ある。そんな中で、しぶとく候補に残っているのが「診療ガイドラインを考慮した診療体制確保」という項目。
これは、「医療の標準化」という観点から望ましい項目のように思えるが、「医師の裁量権を奪う」「新しい治療法の開発を妨げる」との指摘もある。「ガイドラインはけしからん」と言って使わない医師もいるという。同分科会でも、委員の評判はあまり良くない。
それなのに、最終候補に残っているのはなぜだろうか─。
同日の分科会で厚生労働省は、「診療ガイドライン」について追加調査を実施するため、「参考としている診療ガイドライン名称」など主な質問項目の案を示して意見を求めたが、これまでと同様、「診療ガイドラインの定義や範囲が不明確」といった指摘が相次いだ。
しかし、このような反応は"織り込み済み"だったのかもしれない。厚労省はこの日、「診療ガイドライン」の調査項目の中に、「クリティカルパスの作成と利用状況」という項目を混ぜて提案した。
「クリティカルパス」とは、入院した後にどのような検査や治療をして、いつごろ退院するかなどを示した診療スケジュール。同日の議論の中で、松田晋哉委員(産業医科大医学部公衆衛生学教授)は、「クリティカルパスの当初の目的は診療プロセスの標準化とアウトカムの最適化だったが、DPCが導入されてから、利益の最適化が入ってしまったために、少し歪んでしまっている部分もある」と指摘し、次のように求めた。
「(今回の調査では)どのようなクリティカルパスを使っているか、種類を聞くぐらいでいいと思う。その一方で、診療ガイドラインとクリティカルパスをつなぐものがあるとすれば、それは『患者用のパス』だろう。どの(施設の)『患者用のパス』でも、最初に病態を説明して、どのようなプロセスで治療を受けて、どのような状態になったら退院するかが丁寧に書かれているので、ぜひ、『患者用のパス』がどのぐらい作られているのか、どのように適用されているのかを調べていただきたい」
その上で、「患者用のクリティカルパス」を公開している病院を診療報酬(新たな機能評価係数)で評価するよう提案した。
これに対し、保険局医療課の宇都宮啓企画官は「確かに先生方からご指摘があるように『内容的にばらつきがある』(という問題がある)。実際に(調査して)把握したところ、大変ばらついていて、一定のものでまとめられないなら、松田先生がおっしゃったような『公開』を評価することもある」と述べ、患者用のクリティカルパスの公開に前向きな姿勢を示した。
同日の議論で気になるのは、DPCに反対している日本医師会常任理事の木下勝之委員の発言。
「DPCを導入している急性期病院の基本は、『究極のクリティカルパス』をつくる方向性。なるべく無駄がなく、最も適切な治療をしていくということなら、究極はそこだと思う。ただ、相手は患者さんなのでそんなはずはないが、大部分はそれでもいいというケースが出てくるはず。そのような意味で、クリティカルパスに則れば、標準としての治療方針、診断指針すべてがクリティカルパスで通るということになるはず。理論的には。逆に言うと、『そんなことでいいのかな』という思いが少しある。つまり、医師の裁量権などいろいろある。だけど、この仕組みの考え方はクリティカルパスの方向性だろう」
木下委員は、厚生労働省の「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」で委員を務め、医療事故調査委員会の創設を推進する立場。「医療の標準化」よりもむしろ、「医療の透明化」を重視しているのかもしれない。
ただ、議論の最後で、宇都宮企画官は次のように"断り"を入れている。
「今後(新たな)機能評価係数を考えていく上で、高度急性期を扱うような大病院が評価されるような係数も当然あるだろう。一方、地域で急性期を担っている中小病院が取れるような係数もあるだろう。そのようなことを考えたとき、1つは標準化という観点(がある)。大変小さな病院やケアミックスの病院が(DPCに)入っている中で、つまりそのような病院は大学病院の機能とはまた違っていて、"コモンディジーズ的なもの"(頻度の高い疾患)をたくさん診ていると思う。そういう病院についての機能の評価の仕方も考えなくてはならないというバックグラウンドで、医療の標準化、あるいは診療ガイドライン、クリティカルパスという話が出てきたとわれわれは理解している。決して、これを特定機能病院に当てはめようとか、そういう話ではなく、やはり現在、かなりDPCの状況が変わってきている中で、どういうものが評価できるか。そのためにまず調査をしてみて、使えるかどうかは結果が出てみないと分からないが、そのようなスタンスであるということはご理解いただきたい」
委員の主な発言は以下の通り。