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各団体の思惑が渦巻く救急医療 ─ 7月15日の中医協

日本医師会委員1_0715.jpg 2010年度の診療報酬改定で重点的に評価される救急医療をめぐり、中医協に参加する各団体の思惑が渦巻いている。(新井裕充)

 中医協・基本問題小委員会(委員長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授、中医協会長)は7月15日、救急医療についてDPC評価分科会が提案した特別調査案を了承した。

 次期改定に向けた議論で、健康保険組合連合会など診療報酬の支払側は、前回の2008年度改定と同様に病院・診療所間の配分見直し(病診格差の是正)を主張するだろう。このため、開業医を中心に組織する日本医師会(唐澤祥人会長)は、救急医療の評価と診療所の再診料問題とを結びつけられることは避けたいところ。

 例えば、「救急医療を重点評価するには○億円足りない。従って、その財源を捻出するために診療所の再診料を引き下げるべきだ」という展開は好ましくない。そこで、救急医療に対して国や都道府県の補助金がどの程度出ているのか、救急医療に必要な財源を明らかにすることを求めるなど、支払側をけん制している。

 これに対し、病院団体は「診療所よりも病院に点数を付けろ」とは言わず、日本医師会との強調路線を保っている。全国の中小病院でつくる全日本病院協会(西澤寛俊会長)は救急医療の調査について、入院医療費の定額払い方式(DPC)を導入している病院だけでなく、出来高算定している病院も含めて広く調査することを求めている。その意図はどこにあるのだろうか。

 急性期病院の入院医療について同協会の「病院のあり方に関する報告書」(07年版)では、「救急医療の集中化やDPC対象病院の拡大などを背景に高度医療が中心となっており、従来の一般病床において広く行われている医療という概念と異なる方向に進んでいる」と苦言を呈している。その上で、「亜急性期入院医療」の在り方に触れ、「地域一般病棟」の必要性を訴えている。

 全日病によると、亜急性期入院医療とは、「急性期以後の状態が固定していない状態や回復期リハビリテーションを要する状態など」を指し、入院医療の需要が高いという。その代表的疾患は、「軽度~中等度の肺炎」「一般的な骨折」など多岐にわたるが、「重装備の急性期病院における入院適応とは異なる場合が多い」としている。大学病院など高度な医療を提供する病院との棲み分けを図る意味で、「地域一般病棟」という病床種別の概念を要望している。

 これは、地域の中小病院が生き残りを図る道として、「急性期入院後に引き続き入院医療を要する状態(ポスト・アキュート)」のほか、「重装備な急性期入院医療までは必要としないが、在宅や介護保険施設での治療では限界があり入院を要する状態(サブ・アキュート)」の両分野を重視しているように見える。

 つまり全日病は、「対診療所」を意識した主張ではなく、「高度な急性期病院 VS 地域の一般急性期病院」という構図にフォーカスを当てている。「診療所よりも病院の入院医療を評価せよ」という主張ではなく、「高度な急性期病院ばかり優遇せず、地方の中小病院も見捨てないでほしい」という主張にとどまっている。

 一方、保健師助産師看護師法の改正法が成立したことを受け、「看護教育の大学4年制一本化」に大きく弾みを付けている日本看護協会(久常節子会長)は、専門性ある看護師の配置を診療報酬で評価することを求めている。救急医療の分野では、救急患者の病態を判断し、診察の優先順位を決める「トリアージナース」の評価を求めていく意向と思われる。

 このように各団体にはさまざまな思惑があるが、救急医療の評価をめぐっては、「そんなに大げさな話ではなく、当たり前のものを評価すべき」との指摘もある。
 例えば、点滴のボトルやチューブなど救急患者の治療に使う医療機材、創傷の処置に使う大量のガーゼや包帯、尿をためる袋など、「救急をやればやるほど病院の持ち出しが増える」との声は少なくない。

 今回、救急医療について実施する特別調査の目的は、「複数の診療科における24時間対応体制」を調べるため。これは、DPC評価分科会の相川直樹委員(財団法人国際医学情報センター理事長)らの提案を受けている。相川委員は1月21日の同分科会で、「救急患者受け入れ機能係数(仮称)」を提案し、次のように述べている。

 「昨今の救急患者受け入れ不能事例、あるいは一部は『たらい回し』とか『受け入れ拒否』とか、いろいろな形での大きな社会問題となっておりますけども、この係数の導入によりまして、地域の救急医療体制を改善し得るということがございます。救急患者は急性期医療を要するということでありますので、DPC対象病院は急性期入院医療を担うということから、またDPC対象病院の社会的に求められている機能を評価する係数として適切であると私は考えました」

 とかく最近の救急医療に関する議論は、「小児救命救急センターの全国整備」などダイナミックなものが目に付くが、「救急現場の疲弊を改善するには何にどのような点数を付けたらいいのか」という現場重視の議論に期待したい。また、そのような提案が病院団体から出ることが望ましいと思うのだが......。

 なお、救急医療の特別調査について了承した7月15日の中医協・基本問題小委員会の議論は以下の通り。

 【目次】
 P2 → 「出来高病院での調査は必要ないのか」 ─ 全日病
 P3 → 「国や都道府県の補助金等を受けている病院も多い」 ─ 日医
 P4 → 「救急患者さんに優先順位を付ける体制の調査を」 ─ 日看協


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