薬価維持特例の試行的実施に向けて (1) ─ 中医協・薬価専門部会
新薬の価格を一定期間下がらないようにして、研究・開発に投じた資本を早期に回収する─。先発品メーカーが望む「薬価維持特例」について中医協の薬価専門部会は、「試行的実施」を視野に入れた検討をスタートした。(新井裕充)
厚生労働省は7月15日の中医協・薬価専門部会(部会長=遠藤久夫・学習院大経済学部教授)で、新薬の価格を引き下げない仕組み(薬価維持特例)を柱とする製薬業界の提案に関する「論点案」を示した。
「論点案」には、「試行的な実施ということも検討してはどうか」との文言が盛り込まれた。これにより、今後の議論は「試行的な実施」に向けた検討に入る。近く、厚労省が示した「論点案」をベースに業界代表からのヒアリングを実施する予定。
「薬価維持特例」をめぐる最大の問題点は、国民から集めた保険料が新薬の開発資本になること。このため、日本医師会の委員は「薬価維持特例」の導入に反対する姿勢を崩さない。その背景に浮かぶのは、限られた医療財源の奪い合い。つまり、「医療界がこんなに苦しんでいるのに製薬業界は儲けている」などと主張している。
また、先発品を優遇すると後発品の使用促進にブレーキがかかるという点も反対の根拠になっている。これは、特に日本薬剤師会の委員が声高に叫んでいる。しかし、「薬価維持特例を導入したから後発品が進まない」という結論になった方が薬剤師会としては都合がいいと思うのだが......。
それはさておき、薬価維持特例は中医協で再三にわたり集中砲火を浴びながら、当初の提案よりも"軟化"。その大きな修正点が対象品目で、「先発品なら何でもかんでも薬価維持」という提案ではなく、範囲を一定の領域に限定する提案に切り替えている。
どのような範囲に絞るかというと、それは「アンメット・メディカル・ニーズの高い領域」。難病や希少疾病を抱える患者数は、高血圧症などの患者数よりも少ないため、薬の供給が不十分。このため、がんなどの重篤な疾患やHIV等の希少疾病などアンメット・メディカル・ニーズの高い領域の新薬に「薬価維持特例」を導入するという提案。
難病や希少疾病用の医薬品に対するニーズは国内で見れば少ないかもしれない。つまり、儲からないように思える。しかし、マーケットを世界に広げれば、実は十分に採算の取れる領域らしい。そうすると、製薬業界が念頭に置いている「患者」とは、「日本国内の患者」よりも広く、「世界中の患者」といえる。
国民の保険料を原資とする新薬開発によって海外の人々も救う。とても良いことだと思うのだが、薬価維持特例に反対する委員は、もしかすると、ここに引っかかるものがあるのかもしれない。
製薬業界の資料によると、このような「アンメット・メディカル・ニーズの高い領域」として、統合失調症、肺癌、エイズ、慢性腎不全、多発性硬化症など94品目がある。薬価維持特例の「試行的な実施」をする場合には、これら対象品目をさらに絞り込み、薬価を維持する期間も限定することが考えられる。
厚労省は、7月15日の薬価専門部会で、薬価維持特例の対象品目や期間、薬価維持特例終了後の後発品の薬価算定などについて論点案を提示。製薬業界を代表する専門委員が6月3日のヒアリングの補足説明をした後で意見交換に入った。
同日の厚労省と専門委員の説明、意見交換の模様を2回に分けてお伝えする。
【目次】
P2 → 製薬業界が提案する新薬の薬価改定方式(論点案) ─ 厚労省
P3 → 薬価制度改革案の補足説明 ─ 長野専門委員