〔自律する医療①〕亀田総合病院がJCIを取得した理由
先月に日本で初めて国際医療機能評価JCIの認証を取得した千葉県鴨川市の亀田総合病院・亀田クリニックで3日、認証式典が行われる。この2施設を中核とする亀田メディカルセンターの挑戦は、国から指示も援助も受けずに行われたという点で、国家統制色の強い医療界に大きな一石を投じるものとなりそうだ。「亀田」の人々が何を考え、どのように行動したのか、随時ご紹介していきたい。(川口恭)
鴨川市にある同センター施設は、925床の亀田総合病院、31診療科ある外来部門の亀田クリニック(19床)、回復期の亀田リハビリテーション病院(56床)、看護師を養成する亀田医療技術専門学校から成っている。1日の平均外来患者数は約3000人で、これは市の人口(約3万7000人)の8%にあたる。スタッフも約2500人おり、幹線道路を挟んで斜向かいの「鴨川シーワールド」と並んで、地域の代表的民間法人と言える。今回JCI認証を取得したのは、このうちの総合病院とクリニックだ。
JCIは、欧米の保険会社が保険対象とするかどうかの基準となることから、海外富裕層患者によるいわゆる「メディカルツーリズム」受け入れの前提条件となっており、アジア各国の一流病院も競って取得している。このため今回の認証取得で、亀田メディカルセンターは海外患者の積極的な呼び込みに舵を切ったと報じられたりもした。
だが同センターの亀田隆明理事長は、この見方をきっぱり否定する。「マーケティングの効果は副次的なもの。JCI取得で、経営を左右するほどの収入に結びつくなんて考えてない。ひょっとして10年先にそうなれば大したものだけれど、そういうことを期待して受けたわけではない」。ちなみに認証は3年毎の更新制になっている。
もちろん伊達や酔狂で受審したわけではない。直接的な金銭負担だけでも、受審費用が約500万円、受審経費が同じ程度かかった。その他にも基準を満たすために什器設備類を更新したので、それらが積もって4千万円程度になったという。08年度の医業利益が8億5千万円弱、経常利益が2億5千万円強という法人にとって、決して小さな額ではない。
また審査は全て英語で行われるため、審査用の英文書類をそろえる作業、逆に審査基準などを職員向けに日本語に翻訳する作業も膨大になり、専従事務局員を含めて日本人4人、米国人2人のバイリンガル職員6人がほぼかかりきりになった。もっとも長く関与した職員で約2年、全職員を巻き込む形になってからも約7ヵ月という長丁場だった。海外の病院へ視察に行ったり、模擬審査を受けたりといったことも当然必要だった。
疑問や反発を表す職員もいる中で受審まで突き進んだ理由は、「国際的な視点で日本の医療や病院、その質を見つめる必要性を感じていた。国際競争力のある産業分野は必ず世界に出ていって競争している。一方でドメスティックだけでやっていると、農業のように補助金がなければ立ち行かない業種となってしまう。こんなことを以前から言っていたし論文にも書いていた。偉そうなことを言うからには、人様にやれだけではダメで自分の所で実行する必要があった」から、と亀田理事長は説明する。「今回の目的は、質の検証と向上に尽きる。副次的な効果を否定はしないけれど目的としてはいない」
このような発言が出てくるのには、日本の医療がもはやアジアですら一流とは言えない現状があり、「医療崩壊」などといって内向きの論理で足踏みを続けていると、取り返しのつかない程の差がついてしまう危険水域に達しているからだという。
(つづく)