〔自律する医療⑦〕看護師不足解消の裏技
亀田には400人以上の医師が在籍している。同じ千葉県で、病床数は亀田の半分近くある銚子市立総合病院が数人の医師を確保できずに休診に追い込まれたことを考えると、とてつもない数だ。
そして、それだけの医師がいるにも関わらず、亀田総合病院の入院基本料は最高ランクでない。一般病床で最も入院基本料を高く算定できる7対1看護相当の看護師数に足りず、10対1看護に甘んじているからだ。
自前で看護学校を持っているのだが、それでも「近隣の自治体病院と取り合いになって、自治体病院の方が給料が高いので負けてしまう。ウチも同じだけ給料を払ったら一瞬で破綻してしまう」(『医療構想・千葉』発足記念式での亀田信介院長の講演より)のだという。
亀田の経営陣には、まじめにやっても薄給しか払えない診療報酬体系とか、赤字の税補填を前提に高給にしている自治体病院経営の欺瞞とか、文句を言いたいことが山ほどある。しかし、それでも与えられた条件の中で職場としての魅力を上げようと工夫を続けている。
医師に関しては、「一流の医療を学び実践できる環境」を整えたことによって、僻地で薄給にもかかわらず超人気病院になった。だったら、それと同じ現象を看護師にも起こせないかと、3年後の看護大開設とコメディカルスタッフの裁量拡大に取り組み始めている。
これが表だとすると、JCIが絡んでいるのは裏の方だ。今すぐ実効性があるわけではないが、ひょっとすると将来大化けするかもしれない可能性を秘めている。
今年から、二国間協定によってフィリピン人看護師を一定期間受け入れる事業が始まっている。看護補助者として3年働く間に国家試験に合格すれば、その後も7年働けるというもので、亀田にも初年度から4人来ることになっている。彼女たちを「日本語の拙い看護師」として扱うのか「英語を話せる看護師」として扱うのかで、そのモチベーションに大きな違いが出るであろうことは想像に難くない。英語圏の患者が増えれば、当然、フィリピン人看護師たちは後者として扱われ、活躍の場も広がる。その評判が伝われば、亀田を志望する人もどんどん増えるだろうし、簡単には流出しないはずだ。
中国人看護師の場合は、中国で資格取得している人が日本語検定1級に合格すると日本の国家試験の受験資格を与えられる。合格した後は何年働こうが本人の自由だ。既にいくつかの民間病院で受け入れが始まっていて、今年から2人来ることになっている「ウチは後発」と亀田隆明理事長は言う。この人たちも中国人の患者が訪れるようになれば、「日本語が拙い」ではなく「中国語を話せる」で扱われるようになり、他の病院で働くよりやり甲斐を感じてもらえるはずだ。
いずれの場合も、JCI認証取得をきっかけに、外国人患者の増えることが前提になっている。それが、ひいては看護師不足解消の一助にもなるという絵だ。
「人口構成を考えたら、今後は日本全体でも海外からスタッフに来てもらうことは避けられない。問題は、日本人に劣る労働力として扱うのか、優位性と誇りを持って働いてもらえるプロとして扱うかだ」と亀田信介院長は言う。
(つづく)
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