壊れているのは医療ではなく社会 医療構想・千葉シンポジウム①
竜
「齋藤さんの発表では、医療者の説明がよく分からないという患者さんが7割以上もいるとのことだった。千葉県ではピア、患者体験者をこの説明の場に投入したいということで進めている。患者さんの助けを借りたいほど医療者が忙しいこともあるけれど、医療者では患者の気持ちはしょせん分からないというのもあって本当の意味の通訳をどうやって育てるのかが課題だろう」
ささえあう会(?)の五十嵐さん
「竜先生は、よく日本の医療は世界一だと言う。しかし受けた患者の側に世界一のものを受けたという満足感が得られないのはどうしてか。それは発表にあったように医療者の言っていることが分からないとか、質問したくても余りにも忙しそうでできないとか、そういうことが影響していると思う。その間をつなぐ存在としてピアサポーターの養成が行われているわけだけれども、実際には資格を持たない人が中で動くことへの医療機関側の抵抗が大きい。私は昨日まで癌治療学会へ行ってきた。全国の患者50人を招待してくれたので、ようやく患者の声を取り入れてくれるようになったのだな、とありがたく行ってきたわけだけれど、ピアサポーターについても医療者が認めるような資格をつくってもらえないものだろうか。患者体験者は、自分自身のことについてはある程度勉強してきている。そこに専門的な知識も勉強して一つの資格として認めて、きちんと配置される、少なくとも拠点病院には必ずいるというようにして、たとえば診察室の中にも患者さんと一緒に入れてもらえるとか、そういうようにしてもらう必要があると思う」
竜
「日本では医師が説明義務を課されているけれど、米国では違う。ナースプラクティショナーが説明を担当していて、アフターケアから緩和ケアまで行っている。仲良くしているプロビデンス病院は320床しかないけれど医療従事者は1000人以上いて、NPも22人いる。日本もそろそろ国家資格としてのNPを考えるべき時でないか。看護協会のやっている認定看護師、専門看護師を国家資格化するのかも含めて、同じようにピアサポーターも国の事業としてやらないと。そうでないとずっとボランティアでやっている。一般の人の視点に立たないと絶対に医療への支援は出てこない。国に全部言っても仕方ない話ではあるが、しかし国の事業に位置づける必要がある。医療のグランドデザインをもう一度我々で作っていかないといけないだろう」
了徳寺大学の松村氏
「7割の患者が拠点病院へ戻ってしまうというのは、どういう理由か」
齋藤
「今の段階では、患者は拠点病院と地域の医療施設が連携しているのを分かっていない。見捨てられたと思ってしまう。こういうシステムになっていると周知できれば、また状況は変わるのでないか」
竜
「船橋市の橋本さんから新生児医療について意見書をいただいている。いらしたら簡単に一言」
橋本
「船橋市にも周産期センターがあるけれど医師不足だ。医療機器も導入から年が経つと使えなくなって、その補充の予算がないという話も聞く。国でも予算をつけているけれど、それが県を通じて市に降りてくる時には足りない、そんなことを意見書に書いた。豊島先生に伺いたいのは、NICUを卒業した患者さんのこと。卒業してから数カ月、数年はよいのだけれど、その後で家族環境が変わってくるというか離婚していいるケースが相当多いと聞く。そのようなことは神奈川ではないのだろうか。どうしても、そのような子供を産んだことへの母親への批判が強いとか」
豊島
「私はこの仕事を12年ぐらいしている。若いころの患者さんは確かに離婚している例が多い。最近は、我々にも相当の責任があるのかなという気がしてきている。入院中の説明が十分だったのかという問題もあるし、治療に集中するあまり家族ケアができてなかったんじゃないかとか。母親はNICUで日々生活しているような状況でこどもと一緒に乗り越えている。しかし、お父さんは忙しいでしょうから来ないでいいですよとやってしまうと状況が分かってないから、父親との間に認識のギャップができてしまって、ふとした家族の危機でお互いに理解が足りないと感じて離婚まで行ってしまう。だから今の我々は、父親も含めて、おじいちゃんおばあちゃんもスポイルしないで大事なことを説明する時には全員来てくださいという風にして、父親にも治療に参加してもらうことを心掛けている」
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