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ニュース〜医療の今がわかる

壊れているのは医療ではなく社会 医療構想・千葉シンポジウム①


 黒木
「小児科医として新生児科医の最前線でこれだけ長く仕事をしてらっしゃることにまず敬意を表する。千葉も新生児医療はかなり厳しい。そこで3つ質問したい。まずNICUを行政単位でなく医療圏として運用できないものか。次に小児科医ですら足りない、まして新生児科医はとてつもなく足りない。先生は既に増やすための試みを始めているようだが、全国的には、どうしたらよいと思うか。最後に、そもそも産む場所も足りないわけで、産科診療所とNICUはどのように連携できるか」

 豊島
「たらい回し報道があってから、行政はとりあえず収容できますというのを優先して、どんどんNICUの整備を進めている。かなり小さなNICUもできてしまいそうなのだが、正直そのような小さなところで医療の質が担保できるのか非常に心配。質を担保するには、ある程度NICUの集約化は仕方ないと思う。そうなった時に県単位で考えてよいのかという問題はたしかにある。県境のあいまいな部分をどう連携するのか、病院、行政、医療機関設置者で考えていく必要があると思う。

 新生児専門医ができて、小児科医でも新生児医療を敬遠する傾向が出てきているけれど、24時間365日の継続が必要な分野なので1人のスーパーマンでできる医療ではない。多くの方に関与していただくことが大切だと思う。そのためには軽症の方であれば、普通の小児科医にもNICUの子供を診てもらって、小児科全体で診ることが欠かせないと思う。小児科の教育の中でも新生児医療は特別なものではなく軽度のものは診るんだという取り組みが必要で、そのためには診療ガイドラインの整備なども必要だろう。

 私が医師になった15年前は、これから少子化に向かうから産科も小児科も職にあぶれるぞと言われていた。その頃にそういうことを言っていた人たちは状況を見誤ったわけだ。だから、その時点から前提を考え直して、まずはお産場所を確保しないといけない。お産は自然のものなのだから助産所も含めて整備を考えていく必要があると思っている。産む場所がない結果、救急車を呼んで産むという妊婦さんがいる。こういう人たちは重症だった場合に対応できないので、全員が高度な医療機関へ来る。結果として何でもないお産の人がベッドを占領して、本当に医療の必要な人が受けられないというようなことが起きている。これは妊婦さんたちにもしっかりと自覚を持ってもらう必要があるだろう」

 松下政経塾・高橋氏
「勤務医を9年ほどした。現場の人が燃え尽きないようにはどうしたらよいか」

 豊島
「私たちの施設では看護師50人ぐらいのうち毎年4分の1が辞めてしまうという状況が続いていて、だんだん質の担保すら覚束ないかもと心配になっていたのだが、ここ1年状況が変わって報道などで社会の理解が進んだ結果、やり甲斐の面で改善があったようで、昨年は誰も辞めなかった。これ一つ見ても待遇の改善だけではないなと思う。患者の側でも求めるだけじゃなくて、感謝とまでは行かないにしても忙しいことへの理解は進んだと思う。

 その上で今すぐにということであれば忙しすぎるのは何とかした方がいい。大事なのは若手を育てるだけじゃなくて50代の人が辞めなくても済むようにすること。今の状況だと、体力が衰えてくると辞めざるを得ない。そんな上の世代を見ていたら若い医師も志さない。上の年代は体力がない分、知識や経験がある。こういう人が残っていけるように、たとえば当直回数は少なめにして、その分若手は体力で貢献するとか、仕事の公平というのをもう少し微調整する必要があると思う。

 今や新生児科医も産科医も半数は女性だ。今はもし1人でも休むと、その分のしわ寄せが他のメンバーを直撃するから、産休・育休を取れないし、取ったら復帰できない。男性でも家族の介護などで離脱すると同じことになる。今は全力疾走する人しか残れない現場になっている。少しスピードを緩めても参加できるようなシステムに組み替える必要がある」

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