PMDA・近藤達也理事長が動く 東大医科研・宮野悟教授(上)
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の近藤達也理事長(写真右から2人目)は、機構の働きを向上させるため、自ら頻繁に有識者の元へ出向いて意見を聴いているという。安全第一部の三澤馨部長(写真右)、同部調査分析課の松井和浩課長(写真右から3人目)の3人で、東大医科研の宮野悟教授を訪れた今回、同行を許されたので、その対談の模様を上中下の3回シリーズでお伝えする。初回の今日は「立ち後れる日本のゲノム医療」について。(担当・構成 川口恭)
近藤
「今日は貴重なお時間をいただきまして、ありがとうございます。先端の話をいろいろうかがいながら、これからのPMDAのありようを探りたいなと思っております。PMDAには審査、安全、救済と3つの部門があるんですけれど、今日お邪魔したのは安全の担当者です。お薬がどれだけ安全にデリバリーされるか、もしくは何か起こった時にどういう風に対応できるかということを考えると、お薬そのものにどういう個人的背景が影響を及ぼすのか、これから探っていかなければならない時代なんだろうと思うので、そこらへんについて先生のご見解をうかがいたいと思います」
宮野
「ちょっと私の愚痴も聞いてください。20世紀末にアメリカではじまった国際的国家的プロジェクトと言われたヒトゲノム計画がありまして、それが順調に発展してきて、もうすぐヒトゲノムの解析が1時間以内で数万円以内でできる時代が来る、と言われています。コンピュータが、ムーアの法則と言って18カ月で倍の性能になっていくのがありますけれど、ゲノムシークエンスの性能が上がるのは3カ月程度です。それだけ活気付いている分野なのに、残念ながらゲノムシークエンスをするという日本発の最先端の技術は1個もありません。だから、検査や診断に使うようになった時には全部アメリカから買うしかありません。
技術的には、日本の技術者だって、やればすぐにでもできる程度のものなんですが、学問分野の協力を得られないんです。日本のバイオサイエンティストはバイオロジーだけに集中していて、バイオロジーがどんな風に社会にインパクトを与えるかという、そこの所には決して踏み込まないんです。医療機器関係の方々と話をしていると、どうしたらいいですかという話になるので、理学部からバイオロジーの人をパージすればいいんだと言っています(笑)。
日本は技術立国とか言っていますけれど、フォーカスする所を1つ忘れているんじゃないかと思います。12月に出た新成長戦略でも、ライフサイエンスをやる、グリーンイノベーションをやる、と言うけれどゲノムのゲの字もないんです」
近藤
「日本の遅れている原因は何ですか」
宮野
「まずサイエンスの世界の問題があります。バイオエンジニアリングがほとんど日本にはないんです。バイオロジーはありますけれど。ある凄い計測技術を開発して凄いデータを出している人達がいて、私なんか感心していても、『彼は一体どういうバイオロジーをやったんだ』、どんな新たな生命の仕組みを見出したんだ、ノーベル賞受賞者のようなディスカバリーをしてないじゃないかということになって、評価が低いんです。日本のライフサイエンス関係者が皆、何を見て仕事をしているかというと、Nature、Science、Cell、という科学雑誌です。ここがサイエンスの世界の価値基準を決めていて、皆がそれに合わせて研究をやっているので、そういう状況になるわけです。その価値基準に従わないようなものを作らないと革新的な技術なんか出てこないと思います」