PMDA近藤理事長が動く 東大医科研・宮野悟教授(中)
近藤達也・PMDA理事長と宮野悟・東大医科研教授の対談。本日ご紹介するのは、「今後取り組むべきは人種差か個人差か」というような話だ。
近藤
「レギュラトリーサイエンスとして、ある作用の薬として出ているものに別の色々な作用がある前提で考えないといけないよという話を常々しているわけですが、先生の研究では、それがゲノムレベルでも証明されていますね」
宮野
「がん関係の研究は、皆さんシステム的統合理解に基づく戦略と言っています。じゃあ我々のようなものがどういう戦略を作れるかというと、臨床応用をめざしていく人たちと共同して、数学とスパコンを使って、大規模データ解析とモデリングでがんの多様性とダイナミズムをデジタル化して、がん研究を予測科学に変えていくということになるかと思います。モデル化するとがんの本質が見えてくるような気がするんですね。今のがん研究は、経験と直感と気合でやっているように見えますが、そういうものを科学として扱いましょうということです。
一個のがん細胞があっても、その個性は分かりません。でも、一万人のがん細胞があったら他と比較できますし、それぞれの違いを遺伝子間のネットワークとして浮かび上がらせることのできる技術を我々は開発しています」
近藤
「まさに情報のマネジメントですね。情報を網羅するだけでは十分でなくて、それをどう統合するかが一番大きな仕事です。組織にしてもそう。バラバラな部門があってバラバラにやってたら何のこともない。統合することによって機能が出てくる。
情報もデジタル化してもの凄い数になるでしょうけれど、どう統合するか。それをいつまで経っても手作業でやっているのでは、文明国と言えませんね。IT化が挫折した一番の理由は、そこら辺のエンジニアリングがしっかりしてなかったということと、基本的にバイオロジー、各論の中に入り込んでいって、穴を掘ることが一番だと思っているかもしれないけれど、人類への貢献という意味では、それをどう穴から出てくるものを統合するか、ですよね。我が国がものすごく遅れているということが分かりました。まだまだこれから頭をリセットしないといけないかな、と思いました。今日お邪魔したのは全員安全のメンバーなんですが、審査の段階もここからスタートすべきかな、と思いました。元々作った時のデザインがターゲットとして正しいかというのもあるだろうし」
宮野
「それも個人個人で違いますし、ましてやがん細胞なんかになると個人でもゲノムはめちゃくちゃになっています。だから個人のゲノムに基づいて抗がん剤を選ぶということが適切かということすらも実は懐疑的なんです。肝臓がんゲノムのフルデータが出てきてますけれど、相当に狂ってます」
近藤
「細胞を見ただけでも色々な顔をしていますからね」
宮野
「ゲノムの状態もそうだし、エピゲノムの状態も相当に違います。抗がん剤が効くか効かないか、安全かというのを、一体どうやって審査するんだろうかと思います」