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ニュース〜医療の今がわかる


 現在の研究の進展をもとに10年後の医療を予測すると、ゲノム情報を使った医療が必然的に導入されてくると思います。しかも、今までのように断片的に調べるのではなくて、個人個人のゲノムの情報を全部調べて、それをデータベース化し、それらを利用して医療に応用するようになります。ヨーロッパでもアメリカでも、そういったことを視野に入れた対策が練られ始めています。我々が共同研究をしているメイヨ―クリニックでも、ゲノム情報の利用を前提とした検討委員会が始まっています。それを見ても日本の医療政策の中で、ゲノム情報を使うということが全く考えられていない状況というのがかなり危機感を覚えます。

 将来の医療の姿を描き、それを見据えて、国家戦略としてアクションプランに組み入れて行かないと、単に医学研究の遅れの問題ではなくて、医療制度・医療保険など医療全体に関わる大問題になってしまいます。健康・医療・介護などを研究から現場に至るまで一体として考えていく国家戦略は絶対に必要だと思っています。

 今の医療改革などの議論を見ても、パッチワーク的につぎはぎして、どんどん歪みが大きくなってきているように思います。例えばドラッグラグの問題が出てくると、ドラッグラグをどうするのかという目先のことに汲汲としていますが、そうすると5年後10年後に世界の医療の趨勢から取り残されてしまかもしれないので、やはり、もっと先の見える人たちが国家戦略を作って、それを戦術に落とし込んでどうやっていくのかということをうまく考える必要があるでしょう。あまりにも日本の科学技術政策というのは、長期的展望に欠けていると思います。

ライフサイエンスとメディカルサイエンスの違い

 日本ではライフサイエンスが重要だと言われてきました。しかし、知的好奇心に基づく個人研究という側面が強調され、研究者がいかに1つの分子や現象を深く掘り下げて研究していくのかが評価の基準になっていました。医学研究もライフサイエンスの一分野として認識され、臨床現場に還元するための十分な方策がとられてきませんでした。医学は実学であるにもかかわらず、基礎研究と臨床研究の連携の部分が希薄だったと思います。

 私は、ライフサイエンスとメディカルサイエンスを切り離して考えていった方が望ましいと思っています。ライフサイエンスという言葉は、前に述べたように研究者個人の知的好奇心をいかに尊ぶかという考え方が重要視されます。したがって人間の研究をカタカナの「ヒト」生物種の一種の研究としてとらえます。特に、日本ではこの傾向が強いと思います。しかし、ヒトゲノム研究が典型的な例ですが、欧米のライフサイエンスというのは、しっかりと人(カタカナのヒトではなく人間・患者)に還元することが意識されています。それに対して日本では、応用研究というと一段低い評価を受ける傾向にあります。人間に関するライフサイエンス研究は、やはり病気を治すとか病気を予防する方向を向いていないとおかしいと私は思っていますが、応用研究に対する評価は高くありませんでした。臨床研究は時間も労力も大変かかりますが、その割には報われてこなかったために、臨床研究をやる人材も手薄になってきたように思います。だから、日本の医学系では、基礎研究は強いけれど応用研究は弱いという状態になってしまっていました。

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