患者家族が新生児医療ガイドライン策定に参加
■患者が医療の実態を知る契機に
患者家族の一人としてデルファイ法に参加した、神奈川県内在住の作地雪子さん(36歳)は、現在7歳と3歳になる息子が二人とも早産となり、NICUに入院した経験を持つ。作地さんは「ガイドライン作成の過程が患者家族に対してもオープンにされているという、そのことだけで大きな意義があったと思います。実際、効果があいまいなまま使用されている薬や手法が多くあり、新生児医療はまだまだ発展途上であると印象付けられました」と話す。
豊島氏は、医療の実態を患者や家族が知る契機になると指摘する。「根拠が明らかなことだけをしていても、目の前の患者さんやご家族を救えないと実感しています。医療現場では功罪がはっきりしない治療法であっても、患者さんに少しでも早く良くなってもらいたくて、多くのスタッフで悩みながら、経験を踏まえて治療法を考え出しているのが日常です。『こうやった方がいい』とご家族にお勧めしている診療内容でも、根拠が少ない場合は医療者自身も悩みながらやっていると知ってもらう事自体、ご家族がガイドラインの作成に参加される意義があると思います」
ただ、ガイドライン内には体の器官の細かい働きや、薬剤の種類や量、時間など細かい項目もあるため、医学や医療の知識に乏しい患者にとっては難しい項目もある(例えば...「未熟児動脈管開存症予防のために,インドメタシンで予防投与を行う場合,生後6 時間以内に0.1mg/kg/dose を,6 時間の持続静注により投与することが奨められる。動脈管の閉鎖が得られない場合,24 時間毎に3 回までの投与を考慮する」(根拠と総意に基づく未熟児動脈管開存症治療ガイドライン、No,10)など)。
今回、デルファイ法の実施前に家族への説明が実施されたが、作地さんは「医学的・臨床的なことはもちろん、全く知りませんのでこれが一番厳しい思いでした」と言う。森氏は、「専門家のディスカッションに対して、『どういう意味なのか』と、投げてもらうのも一つのプロセスなわけです。『患者さんはそこが分からないんだ』という事が、医師は分かるはずなのに分かっていないのです。患者さんが何が分かって何が分からないという事を医療者が理解するという事も大事です。また、専門家同士の話し合いは技術的になり、自己満足になってしまいます。そこで患者さんに質問されると、『患者さんにできるだけ健康になってもらうことが目的なんだ』と気付いて考え方が変わり、話を原点に戻すことができます。そういう視点を投げてもらう事も大事だと思います」と話す。
患者中心のガイドラインという視点から、診断を導き出すためだけの疑問項目は今回除外されている。森氏は、「診断は目的じゃなくてあくまで通過点です。診断精度が上がって、どういう診療行為に変わっていくのか。そこまで含めて変わるものでなければ、そういう項目には意味がないのです。診断精度が高くなることによって、患者さんにとってはネガティブな影響が出る事もありますから」と説明する。
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