患者家族が新生児医療ガイドライン策定に参加
■「作成プロセスの考え方は医療政策全体に通じる」
作地さんは参加した感想を、「赤ちゃんが早産で、ショックを受けている最中に生まれてすぐ告げられるのがこの病気だと思います。この病気に対する治療方法のガイドラインができ、医療者が安心して、ガイドラインを根拠に治療方法を患者家族に説明でき、そして治療できることは家族にとって、とてもメリットのあることだと感じました」と話す。
豊島医師も「どこのNICUも人手不足で忙しく、一堂に会しての会議などを開く余裕はありませんでした。その分、インターネットでそれぞれの職場にいながら、メーリングリストで一日に何十通ものメールをやり取りして意見交換してきました。日々の診療もあるのでこれだけに時間を割くわけにもいかず、志のある協力者を募り、人海戦術で作成しました。その分、全国各地の様々なNICUの現状や意見が反映されたものになったと思います。皆でディスカッションしたり、デルファイ法で公平で透明性ある総意形成に導こうとしたり、ここまでやっているガイドラインはおそらく他にはないのではないでしょうか」と言う。
森氏は、このガイドラインの策定プロセスに関する考え方は、医療政策全体に通じるものと語る。「ある一つの医療政策についてしっかりエビデンスをまとめ、納税者の視点も含めて費用対効果を考え、なおかつ国民の皆さんの総意形成をする、という策定プロセスです。ガイドラインや医療行為に限らず、日本に一番欠けているのはこういうプロセス。政権が変わっても、ステークホルダーの押し合いへしあいの政策になっています。これは根源的には全く一緒の問題です。こういうプロセスがないから今の日本の医療政策は誤りで、迷い込んでしまっているのです。力強い人が勝つ"相撲"のようなものです。力が強い人が勝つなら社会的弱者といわれる人を救うためにある医療は負けてしまいますが、それではいけないです。だからこそ、国民の皆さんの総意形成をし、誰が何と言おうとも科学的根拠を中心に話し合いを進めていく、そういう視点が必要です。日本は政局でなく、政策で変わっていくようになっていかなければなりません」
また、今回のガイドラインはインターネットなどを使うことによるコスト削減が図られたものの、豊島医師は、「作成に協力してくれたNICUの医療者が睡眠時間や休息時間を削り、ご家族もボランティアで加わって頂き、みな手弁当で参加して出来上がったガイドラインです。これでは、いいものが出来上がったとしても、今までの医師の過重労働によって医療が支えられていた構図と変わりません。ガイドライン作成自体が医療者の過重労働の原因になるかもしれないとすら、この事業を通じて実感しました。国民がガイドラインを求めるならば、学会だけが費用を出すのも違うと思います。国民や社会がガイドラインなど医療の質の改善のための事業にお金をかけていくこと、また様々な職種や立場の人がガイドライン作成を支援していくという体制も必要ではないでしょうか」とも指摘している。
ガイドライン自体の詳しい内容は、こちら。
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