子ども亡くす親の気持ち分かり合える機会が減ってきた―細谷亮太聖路加国際病院副院長
■小児がん治療の劇的な進歩
そういうのに比べると小児がんは遺伝子変異が多くなくて、生まれつきあるところに遺伝子変異があって、そこにヒットが1つ2つあっただけで起こってきます。論文の中には4歳ぐらいまで全く何もなかった子が1回風邪をひいてがんになったというようなことが言われたりしています。増殖スピードがものすごく速くて、その子の命を取るまでに4カ月ということもあります。子どもはもともと死んではいけない人たちなので、そういう人たちのがんは最終的には治るようになっていたんですね。治癒率が8割9割ぐらいまで上がり、治せるようになってきました。取れなくても治せますと。ただ、予防が困難なのでなったのを治すことしかできないです。大人の場合は予防することはできます。例えばたばこをやめるとかで、大人の肺がんは10人中7人が起こらずに済むと言われています。みんなでたばこをやめれば、煙草を日本の国が売らなくなったら医療費ががんの治療代だけでなく心筋梗塞とかも含めて3兆円。4、5兆円の医療費が削減されると言われます。でも売っています。売っている利益はせいぜい1兆円から2兆円の間なのですごくいいのに、そうしないのはどうしてでしょうと思います。
小児がんは薬を使い、大人のがんは外科療法を使います。それは転移が最初からあるかないかの違いです。小児がんは最初から飛んでるのが分かってましたので最初は治せなかったんです。私が生まれるこの年まで、治す手立ては全くありませんでした。一つのターゲットとして、白血病を治せるようになるとしたら他のがんも治せるだろうとパイオニアの人たちは考えていました。そういう単純な発想が大事だと思いますが、最近はそういう単純な発想がだんだんなくなっていっているように思います。子どもに一番多い急性リンパ性白血病を治せるようになったら他のものも引っ張られて治るようになるんだろうと考えられ、みんながこれにかかって治そうとしたんです。その結果、1990年ごろにはもう8割近くが治るようになってきました。それに引っ張られるように他の小児がんも治るようになってきて、全体で7、8割の病気が治るようになってきました。でもなかなか治らないのは脳腫瘍、これはまだまだ難しいところにあります。でもそのうち治ってくると思います。
小児がんは進んでいても、全部腫瘍を取りきれなくても治すことはできます。私達が研修を受けていたところ、その頃僕の先生は「お気の毒に。お宅のお子さんの病気は残念ながら治すことはできません。一時的に良くなることはあるけども、最終的にはだんだん治らなくなって亡くなっていきます。でも交通事故であっという間に連れていかれるのに比べたらずいぶん余裕があって、その間にどんなことができるというのを評価して、何とか頑張って下さい」という話をしていました。でも今私達は、「7、8割は治せる病気だから、とても大変だけど頑張って治しましょう」という話をお母さんお父さんに言えるようになりました。それが何のおかげかというと、1948年にハーバードにいた小児がん治療のパイオニアのファーバーという医師が、抗がん剤を使って小児がんを治そうと思ったのが始まりです。(中略)それから10年に1回ぐらい、エポックメイキングな小児がんの薬ができるようになります。どんどん成績も上がりました。