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「女性という『性』を失う」子宮頸がん‐癌研公開講座で患者会の穴田佐和子氏


私の経験したことについてこれから少しお話ししたいと思います。まず検査を受けまして、私のがんはとても大きく、もし骨盤とか膀胱とかに達していた場合には手術ができないだろうという先生の判断でした。私はこの時色々な説明を受けまして、「先生、もし手術ができなかったらどれぐらい私は生きられるんでしょうか」と聞きました。そうすると先生は、「まあ半年ぐらいかな」という答えで、とてもショックを受けました。検査の結果私は何とか手術を受けられることになったのですが、結局その後半年にわたって大学病院に入院することになりました。「ああ、もう二度と子供を持つ事ができないのか」とか「卵巣もリンパ節も取って、女性である事もかなわないのか」という思いがやはり頭の中に浮かんできたんですけれども、さすがに私の命がかかっているということで、気持ちを切り替えて手術を受ける事にしました。
 
私が受けた手術というのは広範子宮全摘出術というとても大きな手術で、膣の上部、子宮、両方の卵巣、子宮の周りの基靭帯という筋肉、そして骨盤内にあるリンパ節をすべて取りましたので、骨盤内をごっそりと取る大きな手術でした。手術は先生にして頂いて無事終わったのですが、手術の結果リンパ節を30個とったうちの4つに転移が見つかったということで、その後の治療も引き続き行われることになりました。
 
私が受けた治療は、手術のほかに抗がん剤と放射線という治療なんですけども、抗がん剤では色々な副作用が出ました。まずよくイメージとかでもあると思うんですけど、髪の毛がどんどん抜けていきました。これは薬による作用で、その薬を終了したら生えてくるということだったので気持ちを切り替えたんですけども、お風呂に入るたびに抜けるんですね。朝髪を梳かしても、抜けてしまう。それがとてもみじめに思えて、病院の1階に床屋さんがあったので、そこに行って私は「じゃあいっそのこと剃ってしまおう。つるつるにしてしまえば抜ける悲しみもないし、気持ちもさっぱりするんじゃないかな」と思って床屋さんに行きました。そして「ぴかぴかに剃ってください」と言いまして、生まれて初めて剃刀で髪の毛を剃ってもらいました。床屋さんの技術はとても確かなもので、泡立てて頂き、フォームを塗ってもらって、見事な剃刀さばきで綺麗に剃って頂いて、最後に「お姉さん、いい頭の形してるね」とお褒めの言葉を頂いて、そして勇気を持って病室に帰ってきました。そうするとみんなが「よくやった!男前だね」と拍手を頂いて、みんな同じような経験をしているので、涙ながらに拍手を頂いて、応援を頂きました。
 
ほかに、抗がん剤で私が一番つらかったのは、吐き気です。抗がん剤を点滴していくんですけど、大体4日間には二日酔いの激しいような、カプセルに入れられてぐるぐる回転させられたような、めまいと嘔吐とだるさと、目がくるくるぴかぴか回って、耳鳴りがして、先生の仰る事も全て何度も何度も同じ言葉に思えるような症状が出ました。私はとても辛かったので、ベッドの周りのカーテンをぐるりと引っ張って、布団をかぶって、ずっとその4日間を耐えました。先生は「時間が解決してくれるからね」という言葉をくれましたけど、その時の私は何も考える事ができず、じっと時間がだけが経つのを待っていました。カーテンをぐるっと引っ張っているんですけども、となりのおばあちゃんがそっとカーテンを持ち上げるんですね。そこから細い手が出てきて、私の背中をゆっくりゆっくりと温かい手でなでてくれるんですよ。おばあちゃんはずっと5年以上、がんが再発して何度も何度も同じような経験をしてるので、何も言いはしなかったのですけど、その温かい手に、私は泣きながら吐き続けました。
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