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勤務医の疲弊、無力な中医協

鈴木康裕・医療課長1015.jpg 「救急に従事する医師等の範囲は不明確」─。深夜の救急患者に対応する当直などで勤務医の疲弊が叫ばれる中、厚生労働省が出した答えは「救急医療の調査は難しい」だった。中医協委員から反対意見は出なかった。(新井裕充)

 「救急に従事する医師等の範囲は不明確で、バラつきが大きいのではないか」

 「現状の調査では解釈に窮するデータが多く出るのではないか」

 10月15日の中央社会保険医療協議会(中医協)総会で、厚労省はDPCの調査について救急を除外する調査案を示し、了承された。委員から反対意見はなく、審議は5分でアッサリ終了した。

【勤務医の疲弊】
 入院医療費の一部を定額払いにするDPCをめぐっては、入院期間の短縮をめざす動きが加速することに伴う粗診粗療が問題になっている。DPCは入院期間が長くなると報酬が下がる仕組みであるため、「十分な治療を施さないまま退院させてしまっている」と危惧する声もある。

 一方、入院期間を短縮させるとベッドが空くため、それを埋めるために患者を受け入れようとする。いわゆる「ベッド稼働率」がアップする。
 その結果、医師や看護師らの業務が過密になっているとの指摘もある。「DPCの導入によって医療従事者は疲弊している」とも言われる。

 こうした批判に対して、厚労省は「DPCの導入によって医療の質は低下していない」という立場で一貫している。根拠としているのは、毎年実施している「DPC導入影響の評価に係る特別調査」だが、肝心要の労働時間を調査しないなど的を外した調査設計になっているので、厚労省にとって都合の悪いデータは出てこない。

 そこで、10年度改定を終えた後の中医協で診療側委員は、DPCの調査を中医協・下部組織の「DPC評価分科会」に"お任せ"するのではなく、「我々にも意見を言わせろ」と求めていた。

【無力な中医協】
 8月25日の中医協総会で、厚労省の調査案に対して診療側の嘉山孝正委員(国立がん研究センター理事長)が医師の勤務時間や業務内容などを把握する「タイムスタディ調査」を求めたが、厚労省は「調査が難しい」という姿勢のまま重い腰を上げなかった。

 なおも引き下がらない嘉山委員に対し、厚労省は「医師1人あたりの患者数の調査」という"妥協案"を打ち出したが、救急を除く内容だった。9月24日、中医協の専門組織であるDPC評価分科会で、委員らは「救急医療の調査は難しい」と大合唱。救急医療の調査を除くことについて分科会のお墨付きを得た。

 こうして迎えた10月15日の中医協総会。最終的に、救急を除く調査を実施することで了承された。反対意見は出なかった。しかし、「救急=当直」を調査しなければ、医師の業務負担は十分に把握できないだろう。
 厚労省は医師の地域偏在を是正するため、急性期の拠点病院である「DPC病院」の医師数を調査した上で、"医師の適正配置"を進めたいのだろう。医師数の調査には乗り気だが、勤務実態を調査する気はないように見える。

 近年、医療現場では労働基準法に違反するような長時間労働が放置されていると聞く。労基法違反の勤務状況は医師だけではなく医療以外の職種も同様かもしれない。ただ、その中でも医療現場の疲弊は多数の国民の生命や健康に影響を及ぼすので深刻な問題と言える。

 こうした背景には社会保障費の抑制策があると言われる。医療費の総枠を広げるかどうかは政治的な判断だが、35兆円を超える国民医療費の配分に深く関わるのは厚労省。
 特に、診療報酬の配分を議論する厚労大臣の諮問機関である中医協の役割は重大だが、勤務医の負担が著しい「当直」についてはほとんどノータッチ。厚労省は無関心を決め込んでいるし、病院団体の委員も指摘しない。なぜだろう?


【目次】
 P2 → 当直が負担、「主観的なお答え」
 P3 → 中医協で労基法が議論されない理由
 P4 → 調査できないのは病院管理者のせい?
 P5 → 労働時間の調査は難しい
 P6 → 「医師1人あたりの患者調査」で逃げ切り
 P7 → 「医療崩壊」を阻止できない理由


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