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ニュース〜医療の今がわかる

勤務医の疲弊、無力な中医協

■ 「医療崩壊」を阻止できない理由
 

 中医協のDPC評価分科会(座長=西岡清・横浜市立みなと赤十字病院長)は、「診療報酬の調査専門組織」という位置付けで、医療関係者を中心に構成されている。

 医療費を抑制する立場の支払側委員がいないので医療側に有利な道筋をつける上で重要だが、分科会の議事を厚労省がリード、参加する医療者も厚労省の支援者。分科会で厚労省の意向に沿って承認された報告書が基本問題小委員会、総会へと上がって正式決定する。

 つまり、厚労省のご意向に従う"御用"だらけなので、反対意見が出るはずがない。勤務医がいくら医療現場の疲弊を叫んでも、彼らの代表者が厚労省に追従している。医療者が頑張って医療職以外の国民に「医療崩壊」を叫んでも、医療界の"偉い人たち"に現場の苦労を理解してもらわないことには実効性に乏しい。

 「救急医療の調査は難しい」という意見でまとまった9月24日のDPC評価分科会を踏まえ、厚労省は29日の中医協総会に調査案を提示した。意外にも、嘉山委員から反対意見は出なかった。終了予定時刻をオーバーしていたせいか、議論はほとんどないまま終わった。

 そして迎えた10月15日の中医協総会。審議時間は残り3時間近くあった。「今日こそは何かあるだろう」と期待したが空振りに終わった。
 医療課の迫井企画官は「最終案ということでご了解いただけないか」と念を押すように調査案を示した。反対意見はなく、審議はたった5分で終了した。

 労働時間の調査について"言い出しっぺ"だった嘉山委員が発言しようとしないので、遠藤久夫会長(学習院大経済学部教授)が嘉山委員を見ながら確認した。

 「医師の負担(調査)については嘉山委員からのご発言だったと思いますが、何かございますか?」

 嘉山委員は発言を断った。遠藤会長は「特になし? これでいいということですね」と安心したように返し、厚労省案は了承された。嘉山委員流の"寸止めの美学"と言うのだろうか、厚労省に"牽制球"を投げ込むが、急所は避ける。決して崖の向こうに突き落とすことはしない。

 12年度改定に向けた議論も、こんな感じで進んでいくのだろうか。診療側委員は「コスト調査をしてほしい」と求めているが、のらりくらりとかわされ、気づいたら11年の夏になっているだろう。

 その一方で、「患者にとって分かりやすい診療報酬」とか、「診療報酬の簡素化」という"大義名分"はきっちり確定させる。それを口実に、複数の加算をひとくくりにして急性期病院の報酬をカットするというシナリオは既に見えている。

 「医師の勤務時間を調査しない」ということは、看護師も薬剤師も検査技師も調査しないということ。「労働集約型産業」と言われる業界で人件費を調査しないということは、「コストに基づく診療報酬改定」が難しいことを意味する。
 中医協はしょせん、「ご議論いただきました」「お目通しいただきました」というアリバイづくりの茶番にすぎない。「厚労省主導」は揺るがない。

 ▼ 医療現場で日夜汗を流している医療関係者は、中医協の診療側委員が医療崩壊をくい止めるために奮闘していると信じていることだろう。果たしてそうだろうか?
 一方、多くの患者・国民は35兆円を超える医療費の行方がきちんと議論されて決まると思っているかもしれない。本当にそうだろうか?
 その答えを、「行列のできる審議会~中医協の真実」(10月20日発刊予定)に記した。
 たった20人程度が参加する厚労省の会議で診療報酬が議論され、国民からおよそ見えない所で決められている。厚労省の役人が描いたシナリオを医療界の偉い人たちが追認する。時折、「茶番」とも思えるような議論や芝居がある。ぜひ、多くの人に中医協の実態を知ってほしい。

 

 (この記事へのコメントはこちら

 

【目次】
 P2 → 当直が負担、「主観的なお答え」
 P3 → 中医協で労基法が議論されない理由
 P4 → 調査できないのは病院管理者のせい?
 P5 → 労働時間の調査は難しい
 P6 → 「医師1人あたりの患者調査」で逃げ切り
 P7 → 「医療崩壊」を阻止できない理由

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