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機器も身の内⑩

kiki010.jpg善家唯さん
徳島県・21歳、10歳の夏にペースメーカー

善家唯さんは徳島市にある四国大学の管理栄養士養成課程4年生。ペースメーカーを入れているため、一級障害者手帳を持っていますが、特別扱いされることが大嫌いです。

 善家さんは現在、松山市の道後温泉近くにある実家を離れ、大学から徒歩30秒のところに下宿しています。「近くないと起きれないんですよ」だそうです。どこにでもいるような、朝に弱い大学生です。
 本人も、そんなに特別なところはないつもりなのですが、強いて言えば、友達と比べて妙に病院のことに詳しいなあと感じています。
 善家さんは86年に、愛媛県職員のお父さん、病院薬剤師のお母さんの間に、3人姉妹の長女として生まれました。小さな頃から水泳教室に通う健康で活発な子供。ところが、ふと気づくと、毎年、夏休みと冬休みと春休みには、当時住んでいた八幡浜市から松山市近郊の愛媛大学附属病院へ通うようになっていました。
 本人には、その辺りのいきさつの記憶がなく、後年お母さんに尋ねたところでは、幼稚園の健康診断で脈が遅すぎるのでないかと言われたのが始まりとのことでした。
 脈が遅すぎるというのは、不整脈の一種の徐脈です。血流量が少なくなりがちなため、特に酸欠に弱い脳に影響が出て、めまいやふらつき、失神などを起こします。また徐脈の原因になっている疾患によっては心臓そのものに障害が出ます。
 ただし、善家さん本人には何の自覚症状もありませんでしたし、体育の授業などの日常生活も他の友達と何も変わりなく送っていました。そもそも心臓の仕組みは子供にはちょっと難しいので、自分の病気がどういうものかもよく分からず、通院で松山市まで行くと、その後にあちこち遊びに連れて行ってもらえるのが楽しみだったそうです。
 そんな小学5年生の夏休み、医師から「そろそろペースメーカーを入れようか」と言われました。どうやら成長がひと段落するまで待っていたようでした。
 ペースメーカーは、鎖骨の下に500円硬貨より少し大きめの本体を埋め込み、心臓までつないだリード線で電気刺激を与え、心筋に必要な収縮を促す機械です。でも、それがどういう意味を持つのかもよく分からず、また何か新しい検査でもするのかしらという程度の軽い気持ちで手術を受けました。
 その後、電池交換やリードの入れ直しで3回の手術を受けています。局所麻酔で意識はあるので、2回目の時には、手術の様子を見せてくれるように頼んで興味津々で見ていたそうですが、なぜか途中で顔に布をかけられてしまい残念だったと言います。

できることは遠慮せず

 さて、ペースメーカーの植え込みをすると、重いものを左腕で持ったらいけないとか、金属探知ゲートを通ったらいけないとか、携帯電話を近づけ過ぎないとか、生活上の様々な制限を医師から言い渡されるものです。リード線が外れないよう、機械が誤作動しないようにとの配慮からです。
 でも善家さんは、手術後数カ月だけ体育の授業を見学した以外は、すべて友達と同じように過ごしています。妹さんたちから「めっちゃ元気やのに、身障者手帳を持ってるのって、おかしいんじゃないの」と言われるぐらい元気です。
 本当はできるのに、何かあったら困るから念のためにと特別扱いを受けるのがイヤでイヤで仕方ないのです。
 高校のマラソン大会は、1年生の時に10キロを走り切りました。でも3年生の時には学校が走ることを許可してくれませんでした。
 金属探知ゲートは、空港のだけは通らないようにしていますが、商業施設程度だったら普通に通っていると言います。大学の図書館でも、入学後しばらくゲートを通らないよう言われていましたが、強く要望して普通に通ってよいことにしてもらいました。
 若者ですから携帯電話は必需品です。日常的に使っていますし、枕元に置いて寝て、起きたら胸の下に敷いていたこともあるそうです。
 ただし全くの無鉄砲かというとそんなこともありません。大学の実習で機械室に入るよう言われた時、なぜか部屋へ入れませんでした。後でよくよく調べてみたら、その部屋には、ペースメーカーに重大な影響を与える機器があったそうです。
「自分でもビックリですけど、本当に危ない所は分かるんですよ。普段も無理しているわけじゃありません」
 8月には大学のツテで内モンゴルへ子供たちの身体測定のボランティアをしに行きました。「人の役に立ちたい」という気持ちが強いのだそうです。それは多分、やはり小さい頃から病院に通っていたことが影響しているのだろうと自己分析します。管理栄養士の道を選んだのも、病院で患者さんたちに栄養指導をして役立ちたいと思ったからだそうです。

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