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患者を支える7

全国脊髄損傷者連合会
*このコーナーでは、様々な疾患の患者団体や患者会がどのように患者さんを支えているのか、ご紹介していきます。

 首の骨と背骨(脊椎)の中を貫いて納まる神経の幹。それが脊髄です。脳と全身との間の、運動命令・知覚のやりとりを中継します。何らかの原因で脊椎が損傷を受けると、柔らかな脊髄も同時に傷つくことがあり、そうなると傷より下側の神経に司られる体が麻痺して動かなくなります。そんな脊髄損傷を負った人たちが、できるだけスムーズに社会復帰できるよう、当事者として制度整備を求め続けてきた団体が、今回ご紹介する全国脊髄損傷者連合会です。
 連合会の発足は、ちょうど50年前の1959年。初期の高度成長を支えた炭鉱では落盤事故も少なくなく、半身麻痺や四肢麻痺になっても年金もない外にも出られないという人が大勢いました。そうした人々が集まって制度整備を国に働きかけたのが始まりです。その後、エネルギー構造の変化に伴って炭鉱はさびれていきましたが、今度は高層ビルの建築現場などで転落事故が相次ぐようになり、脊髄損傷者も連合会の会員数も増え続けました。
 その必死の活動もあって、連合会発足の翌年には、労災補償年金制度が確立されました。ほかにも、車いすトイレの普及、車いす車用駐車場の普及、街中の段差解消など、普段何気なく生活している街中に連合会の活動成果を数多く見ることができます。
 では、連合会の事務局を訪ねてみます。川を渡れば千葉県という東京都の東端、湾からの風が爽やかに吹き渡る、そんな住宅街の一角、プレハブ二階建ての一階にありました。

環境が良くなって、会員が増えなくなる

 この日は、専務理事の千葉均さんが、千葉県市原市から応対しに来てくれました。普段は、経理と電話番などを担当する健常者の女性2人が常勤として詰めていて、千葉さんが顔を出すのは月に1度か2度だそうです。
 千葉さん自身は、茨城県の建材工場で働いていた20歳の時、材料を板へとプレスする機械に中腰のまま挟まれ、第12胸椎と第1腰椎がつぶれて下半身麻痺になってしまったといいます。34年前の11月のことでした。
 千葉さんに、会の抱える課題を尋ねたところ、こんな答えが返ってきました。
「会員の高齢化が進んでまして、理事や役員のなり手が、なかなかいないんですよ。実質的な活動を担っている支部にしても、若手のいない所はどうしても活動が盛り上がりませんしね」。
 正確なデータはないものの、会員の平均年齢は50歳を超えているのでないかと千葉さんは言います。
  労働現場を安全にする取り組みが進んだことによって、労災による脊髄損傷は極めて少なくなり、交通事故や高齢転倒などを原因とする人が大多数になりました。しばらくはノウハウのある労災病院で一貫した治療・リハビリ・長期入院するのが標準という時代が続きましたが、70年代後半以降、入院患者の診療報酬が入院期間に応じて減っていく制度ができたことなどにより、急性期、リハビリとも、入院が3~6ヵ月と短くなりました。入院する病院もバラけました。労災病院に長期入院している方をサポートしつつ会の存在を知らせるという流れが断ち切られたのです。
 また、連合会の長年の運動の結果として制度や街並みの整備が進み、たとえ脊髄損傷を負ったとしても社会復帰することが以前より容易になりました。それを当然のことと受け止める人も増えました。会の活動成果が、当事者として活動する必要性を感じさせないという皮肉な現象になって表れているそうです。
「皆さん、何かやるとしても障害者スポーツに目が向きますよね。特に若い脊損の方は」
  そんなこんなで、最盛期には5千人を超えていた会員が現在は3千人を切っています。
「当事者が訴えなければ変わらない不都合はまだまだたくさんありますし、障害者自立支援法のように、積み重ねてきた前程が根本から変わって実質的に後退しまうようなことが、この先も起こらないとは限りません」
 後退しかねないのは制度だけではありません。バリアフリーの街並みも、その意味と経緯を一般の人々が忘れてしまうと、その価値は半減します。車いす用の施設を、車いすの人たちが使いたい時に一般の人が使っているという状態になりかねないことです。現実に全国各地で、問題が起きていると言います。
「会の役割の重要性は変わっていないと思います。でも今は会が活動し続けられるだろうかということすら心配です」。千葉さんは穏やかな口調ながら、ハッキリと危機感を口にしました。

会の説明  本部会費は月300円。脊髄損傷者への電話相談などに対応する他、年に1回、全国45支部の要望を取りまとめて国に要望し、その成果を会員限定のサイトにいち早く掲示したり、毎月発行する会報の『脊損ニュース』に掲載したりしている。  最近では、脊髄損傷を負ったばかりの方々を、同じ障害の先輩たちで精神的に支えると共に、福祉情報などを伝えるという「ピアサポート」に力を入れている。養成研修を済ませた「ピアマネージャー」が病院を訪問したり、勉強会を開いたりする、そんな3カ年のモデル事業が2年目に入ったところだ。ピアマネージャーは全国で168人登録されている。 同会の連絡先は 03-5605-0871
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