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「医行為」って知ってますか?


行政の道具にされる危険も

 この「医行為」の定義があいまいなために、その時々の行政担当者によっていくらでも都合よく解釈できてしまうという問題が起こっています。
 「通知行政」という言葉を耳にしたことがないでしょうか。法律に基づいて行政を行う省庁は、必要に応じて都道府県などに対して、「通知」や「通達」などの文書で法律の解釈や制度の進め方について連絡しますが、この構造に大きな問題があります。法律には書かれていない部分やあいまいな部分、例えば医行為に関する解釈について、厚労省の官僚が机上で決めることができてしまうのです。

通知で揺れる現場
 06年、厚労省通知で助産師の業務範囲とされていた「内診」(妊婦の子宮口に手を入れて開き具合などを確認する行為)を看護師や准看護師に行わせていた病院が警察の捜査を受けました(コラム参照)。
 お産の現場では、看護師による内診は日常的に行われており、助産師が不足する中で看護師が助産師の業務を補っている産婦人科は多くあります。しかし、この問題をきっかけに、厚労省は07年に「看護師は内診を含む分娩の進行管理をできない」などとする内容の通知を出しました。
 この問題には、医師や助産師、看護師など複数の職種が関わっていたため、業界団体や行政の間などでさまざまなやり取りがあったと言われています。一方で、現場の産科開業医からは、「これではお産を扱い続けることはできない。産科医療崩壊が加速する」との声が上がり、実際この通知をきっかけに閉鎖せざるを得なかった産婦人科クリニックも多いと言われています。
 看護師が内診を行うことが妊婦にとって、また妊婦に関わる医療スタッフにとってどうなのかという「質」の問題よりも、業界の都合が優先されていたとしたらどうでしょうか。
 このほかにも、救急救命士が病院内でAEDを扱うことは「医業」に当たり違法と解釈されているなど、通知によって現場で必要な医療が提供できなくなるという弊害を引き起こしていることは多くあります。

置き去りにされる医療の「質」

 医行為の解釈については、時々で問題が発生し、それに対して厚労省が通知を出すなどして何らかの形で決着をつけていることが多いですが、そのたびに現場は混乱したり、厚労省に問い合わせるなどして必要な時間を割かれたりしています。おまけに以前に出されていた通知の内容を上書きするような通知が年を置いて出されることもあり、解釈が時間の経過とともにどんどん複雑になっているケースもあります。厚労省の担当者は多くが2年で代わっていき、誰かが通知の内容を一括管理しているわけでもありません。以前の状況や経緯が分かっている人がいないままにまた新しい通知が出され、どんどん医療の構造が複雑になり、現場が振り回されるという効率の悪いことが起こっています。
 このように、通知行政の下では、医療の「質」の議論は置き去りにされてしまい、最終的に国民の受ける医療の質に影響が及びます。

看護師の「内診」問題って?  年間に約3000件のお産を扱っていた堀病院(横浜市)で、06年に当時の院長が看護師や准看護師に指示して妊婦に内診をさせていたことが問題になり、院長と看護師ら11人が保健師助産師看護師法違反の疑いで書類送検されました。厚労省は02年と04年に、「内診は『助産』行為に当たるため、看護師は行ってはならない」とする内容の通知を都道府県に出していましたが、院長は通知については「見解の一つにすぎないと考えていた」と報道されています。地検は看護師の内診について、助産師の偏在など構造的な問題もあるとして、院長らを起訴猶予処分としました。この出来事は「無資格助産事件」とも言われて世間を騒がせ、看護師が内診を手伝うことが一般的とされていた周産期医療界からは多くの反発の声が上がりました。

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