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治療が消える 治療を守る①

 09年早々に流れた「骨髄移植が止まるかもしれない」というニュースを覚えているでしょうか。輸入に頼っていた医療材料の供給不安が原因でした。調べてみると医療材料や機器の周辺には、構造的な問題がいくつも隠れていて、このまま放置すると、治療の選択肢が減る事態すら起きかねないことが分かってきました。どのような問題が隠れているのか、何回かに分けてご紹介していきます。

在宅でがんと生きる

 「国は、がん患者さんの最期も在宅で、と言ってますけど、どうもチグハグなんですよねえ」
 在宅医の川越正平・あおぞら診療所上本郷(千葉県松戸市)院長は、穏やかな口調で語ります。
 積極的治療の段階を過ぎた進行がんは、患者が在宅での最期を選択することもできます。しかし、そのためには骨転移などの激しい痛み(疼痛)が出ないよう、医療用麻薬などで上手にコントロールすることが大切です。
 痛みのコントロールには薬の血中濃度が一定であることが望ましく、そのため、皮膚に張って徐々に吸収されるなど工夫された徐放剤も普及しています。ただし高価です。
 同様の効果を期待できるものに、注射液を皮下や静脈内に薬液を常時注入するPCA(patient controlled analgesia=患者管理鎮痛)ポンプというものがあります。血中濃度が安定する他、痛みを感じた時には頓服のように患者自ら即座に薬液を追加することもできます。
 徐放剤に比べると注射液は、はるかに安価。このため特に診療報酬が包括払い(医療行為や使った薬の多少によらず一定額の支払い)になる病院では、ポンプ本体を買っても経営上プラスになるとあって、よく使われています。

ポンプがない

 入院で痛みのコントロールがうまくいけば在宅移行も検討されるわけですが、ここで問題が起きてきます。
 PCAポンプを持っている在宅医療機関が、そんなに多くないのです。
 むしろ、日本では、そのような機器類を医療機関が所有するようになっていない、こう説明した方が正確かもしれません。酸素吸入器や人工呼吸器など在宅で使われる医療機器類は、診療報酬の加算対象(コラム参照)で、その金額内でレンタルするというのが一般的なのです。
 ところが「がん患者さんがポンプを使うことへの診療報酬が、月に1250点しかありません。約60万円の本体価格に対して安すぎ、メンテナンスの手間など考えると赤字になるということで、大手メーカーですらレンタルから撤退してしまいました。今は私たちが機械を買い取って患者さんに提供しているんですよ」と、川越医師。
 診療報酬の倍近い2万円でレンタルしてくれる業者はありますが、その業者は他の機器類で採算を取るために赤字覚悟でやっているそうです。
 「病院がポンプを使っていた場合、在宅医との引き継ぎが難しくなって、状態は安定しているのに家に帰れないという患者さんの生じる一つの原因になっています。在宅医は皆、いったいどういう根拠でこの点数になったのか知りたいと思っています」

そもそも周回遅れ

 実は、がんの疼痛緩和に関して日本は周回遅れです。
 在宅での緩和ケアを研究している看護師の児玉有子・東大医科学研究所特任研究員は、この夏視察に訪れた米国で驚きました。
 訪れた3つの病院で、普段は家にいて定期的に外来へ来るがん性疼痛患者の治療に、埋め込み型の薬剤放出ポンプを使っていたからです。このポンプで、脊髄腔(背骨の中)に医療用麻薬のモルヒネを常時注入していました。話には聞いていたけれど、日本で見たことのない治療がここまで普及しているとは、と思ったのです。
 医療用麻薬は、数十ミリグラム使えば済む人のいる一方で、数千ミリグラム使ってもなお痛みを取れないというような難治性の人もいるのが実状です。量を増やせば、それだけ便秘、眠気、吐き気、呼吸低下などの副作用が激しくなりますし、薬代もあっという間に膨れ上がります。
 脊髄腔への注入は神経に直接働きかけるため、飲む場合の300分の1の量でも同じ鎮痛効果を得られるそうです。副作用なく上手に痛みを減らせれば、患者のQOLが上がるだけでなく、介護する家族の負担も減ります。
 米国でこのポンプは91年に承認され、基本的な治療行為以外にはお金を支払わない渋チンとして知られる「メディケイド」も適応を認めています。大量に医療用麻薬を使うような場合、かえって医療費が安くなるからです。
 このポンプは日本でも、脳脊髄疾患が原因で筋肉が過度に緊張する重度痙縮の患者に筋弛緩剤のバクロフェンを注入する用途には05年に承認され、保険適用もされていました。モルヒネも当然ながら日本で普通に用いられているものです。
 だったら日本でも間もなく使えるようになるかというと、そうとは限りません。まず、がんの疼痛緩和を目的にモルヒネを埋め込みポンプで脊髄腔へ注入することが承認されていません。
 また、この埋め込みポンプは本体価格が100万円以上しますし、使い回しするわけにも行きません。PCAと同様のレンタル料では収支が合いにくいことが考えられます。海外で広く使われているこの医療機器も、適切な診療報酬を設定しないかぎり、日本の在宅医療の助けにはならないということになります。

医療機器の診療報酬  医療機器・材料の経費は、その製品を何回も使用できるか、1回しか使用できないかで処理が異なります。前者は、その機器・材料を使用する時の医師の手技料(技術料)に含まれているものと、手技料に付加されて(加算と呼びます)別途請求できるものとに、さらに分けられます。 ▽今回出てきたポンプの場合、在宅悪性腫瘍患者指導管理料という手技料に注入ポンプ加算として 1250点(12500円)付加されているケースです。その点数が、機器の価格や人件費など病院にかかる費用を十分考慮したものになっていないのは、文中で指摘のあった通りです。 ▽1回しか使用できない医療機器の多くは、特定保健医療材料と呼ばれ、その「製品群」に価格がつく仕組みになっています。そこにも様々な問題があります。

医療機器の診療報酬
(本文)
 医療機器・材料の経費は、その製品を何回も使用できるか、1回しか使用できないかで処理が異なります。前者は、その機器・材料を使用する時の医師の手技料(技術料)に含まれているものと、手技料に付加されて(加算と呼びます)別途請求できるものとに、さらに分けられます。
今回出てきたポンプの場合、在宅悪性腫瘍患者指導管理料という手技料に注入ポンプ加算として 1250点(12500円)付加されているケースです。その点数が、機器の価格や人件費など病院にかかる費用を十分考慮したものになっていないのは、文中で指摘のあった通りです。
1回しか使用できない医療機器の多くは、特定保健医療材料と呼ばれ、その「製品群」に価格がつく仕組みになっています。そこにも様々な問題があります。

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