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治療が消える 治療を守る③

医療機器や医療材料の供給に関する構造的問題を探っていくコーナーです。

関節痛を"根治"する

 関節は、骨と骨のつなぎ目にあたる部分です。堅い骨同士が直接触れあうと、お互いの硬さですり減ってしまいますので、正常な関節部分の骨の表面は、軟骨という弾力に富んだ層で覆われており、また潤滑油の役割をする関節液も分泌されています。このため、痛みを感じることなく自由に関節を動かすことができ、自由な動作も可能になります。特に股関節は、二足歩行という人間の基本的な動作に重要な役割を果たしています。しかし変形性股関節症、慢性関節リウマチ、大腿骨頭壊死、大腿骨頚部骨折などの病気またはケガをすると、痛みが強く出て、思うように立ったり歩いたりができなくなります。
 こうした方の中で、自分の骨や関節を使っては治すことが難しい状態になっている患者さんに行われるのが人工股関節置換手術です。皮膚を切開し、脚側のボール状の骨頭と骨盤側の受け皿とを人工物に取り換えます。痛みの原因となっていた関節は滑らかな動きを取り戻し、痛みからも解放されます。国内でも年に3万人以上がこの手術を受けています。

入院期間4分の1

 日本で一般に行われている手術はお尻から太ももにかけて20センチ以上を切開し、筋肉も切断して行うものです。このため患者さんの負担が大きく、さらに筋肉がくっつくまで待ってからのリハビリも必要で、平均の入院期間は1カ月を超えます。しかし、鎌倉市には平均入院期間8.8日という医療機関があります。切開する皮膚をお尻の10センチ以下に抑え、筋肉もほとんど切らないMIS(極小侵襲手術)という術式で行っているからです。MISを日本に持ち込んだ平川和男医師がセンター長を務める湘南鎌倉人工関節センターです。この術式で行うと、患者さんの負担が少ないだけでなく、1人あたりの医療費も総計100万円少なくて済みます。
 平川医師は「うちが早いのではなく、きちんと患者さんに説明してからやれば、このぐらいできて当たり前なんです。世界はもっと早いですからね」と言います。
 腕で世界に劣るつもりのない平川医師ですが、それでも世界から遅れてしまうのは日本独自の制約が色々とあるからです。制約のなかには、使える材料が古く少ないという障害もあると言います。
 たとえば、平川医師自身が開発に関与した人工股関節を日本でも使えるようになったのは他国から2年半遅れの昨年11月でした。
 「既に使われている素材の表面を、骨がくっつきやすいようにデザイン変更しただけなのに、どうしてそんなに遅れるんですか。家電を見れば分かるように、機器なんてのは薬と違ってどんどん改良されてモデルチェンジするんです。それなのに何年も承認が遅れるから、日本には型遅れ品しかないことになります。欧米の企業が、日本のためだけに工場に古いラインを残しているというバカげた話も聞きます。デザイン変更ですらこの有様。これが新素材だったら、もう絶望的ですよ。あの材料があったらなあと思うことはよくあります」

審査担当者の本音

 日本で医療機器の承認が遅れる理由として、よく挙げられるのが審査体制の脆弱さです。医薬品よりはるかにアイテム数が多いのに、医薬品が8部制で審査を行っているところ医療機器の審査部門は2つしかありません。日本で使えるアイテムは欧米の半分しかない理由の一端です。このため厚生労働省でも08年12月、医薬品医療機器総合機構(PMDA=コラム参照)で審査にあたる人員を、5年間で35人から104人まで増員するというプランを明らかにしています。
 しかし人数を増やしたところで、PMDA職員のマインド、組織の体質が変わらなければ、劇的な改善は望めないという指摘もあります。
 薬害肝炎訴訟の和解条件として08年度から2年間開かれている『医薬品行政のあり方検討会』で、この2月、PMDAの全職員を対象にアンケート形式で行われた意識調査の結果が公表されました。
 その結果、多くの人が共通して「幹部の大多数が厚生労働省からの出向か天下りで、科学的検討よりも厚生労働省の意思が優先される」ということと「承認後に何か不具合が出た場合、審査にあたった人間まで責任追及されるのでないかと怖い」ということを書き込んでいました。
 新しいものを承認して後から叱られるくらいなら、承認しない方がマシというマインドが確実にあるようです。
 欧米では、審査員がその時に分かっている範囲で職務を果たしている場合には、後から何か問題が起きても遡って責任追及されることはありません。何か起きた際の被害救済はもちろん大切ですが、誰がそれを認めたのかという責任追及に傾きすぎて、逆に患者に不利益が出ているとしたら、それも問題ではないでしょうか。
 「安全を確保すること」と「新しいものを導入すること」の両方を成り立たせることこそが、患者を含む社会全体の利益であるはずです。審査機関や審査官がそのバランスよい両立をめざして職務にあたれる環境にすることも、また必要なのです。

医薬品医療機器総合機構(PMDA)  PMDAは、04年に設立された独立行政法人で、医薬品・医療機器に関する①審査②安全対策③救済の3業務を一手に引き受けています。厚生労働省の部局が、何か薬害事件の起きる度にくっついたり離れたりの組織改編を繰り返して現在の形になっています。 ▽大元の組織は薬害スモンをきっかけに79年に設立された「医薬品副作用被害救済基金」です。医療機器の審査は80年に設けられた財団法人の「医療機器センター」が行っていました。医薬品の審査は旧厚生省が自前で行っていましたが、薬害エイズやソリブジン事件をきっかけに97年、国立医薬品食品衛生研究所の中に「医薬品医療機器審査センター」が設けられました。これら3つと厚生労働省の審査部門とが一体化して成立したのがPMDAです。歴史的経緯から出向職員が多く、全職員の約20%、幹部職員の80%が厚生労働省の官僚です。
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