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研修医が見た米国医療7

自己責任社会ゆえ、不利益選ぶ患者も

反田篤志 そりた・あつし●医師。07年、東京大学医学部卒業。沖縄県立中部病院での初期研修を終え、09年7月から米国ニューヨークの病院で内科研修。

 米国の考え方の基本は、自己責任。それが医療の世界にも強く反映されています。医師の仕事はあくまでも患者さんの意思決定を助けることで、最終決定権は患者さんにあるという考え方が浸透しています。
 患者さん側も、自分の体は自分が最もよく知っている、自分のことは自分で決める、という意識の方が多いです。事前に勉強したことを元に、外来などで医師を質問攻めにする光景もよく見られます。面白いことに、南米出身の方にはこういう傾向はあまり見られません。「まあ、なんとかなるよ」と陽気に構える人が多いからでしょうか。
 両者が協調関係にある場合は、この意識によって患者さんの価値観に沿った決定がなされやすく、治療計画への積極的参加が促され、満足度も向上する傾向にあります。自分で決めたことにはある程度の責任を持つとお互い認識しているため、医師も客観的な医学情報に基づき、色々な選択肢を提示しながら、助言役に徹することができます。
 しかし、お互いの意見が食い違う時は少し複雑です。多少の違いであれば、意見をすり合わせて効果的な解決方法を探ることができます。しかし、患者さんの決断によって明らかに患者さん自身に害が生じる可能性が高い場合、それも難しいです。
 この前、白人の女性が血液検査の異常値で入院してきました。白血球が異常に多く、急性白血病と診断されました。血液内科の先生と相談し、すぐにでも精査して治療を始めようという話になったのですが、その方は治療を拒否し、いくら説明しても頑なに退院すると言って聞きません。急に重い病気が診断され、現状を受け入れられない心理は理解できます。しかし彼女は、自分は現状を理解していると言います。そして自分の体は自分のものだから、他人に何を言われようと自分の決定が尊重されるべきで、それが正しいと主張します。自主決定権を元に自分の正当性を訴え、最終的には医師の助言に背いて自主退院されていきました。
 このような自主退院の例は珍しくなく、抗生剤の点滴を拒否したり、血液検査を拒否したり、様々な形で日常的に生じます。医師患者関係が上手く構築されなかった結果として医療者側は真摯に受け止めなければいけませんが、なかには自分の求める薬がもらえなかったから退院するなど、医療機関を自分の都合の良いように使うために自主決定権を持ちだす患者さんがいるのも事実です。適切な治療を受けずに自主退院したことによって重症化し、かえって長期の入院を要したり、合併症が増えたりすることもあります。
 個を尊重することによって適切な医師患者関係が構築されうる一方で、個が肥大しすぎて健康被害が生じうるばかりか、医療システムに負担がかかることがあります。それも自分の責任、と言えばそれまでですが、医療保険を使っている私たちは、個人の決断が社会全体に負担をかける可能性があることを忘れてはいけません。

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