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特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

64-1-1.JPG使いたい薬が手に入らない。高くて買えない。副作用の少ない薬がほしい――。困っている人も、今のところ困っていない人も、知らなかったら損をする、ゲノムを知る3回シリーズです。
監修/松田浩一 東京大学医科学研究所准教授

 かつて小泉政権が発した医療費削減の大号令により、患者の窓口負担の引き上げが断行されました。今となってはその痛みに慣れてしまった方も多いかもしれません。ところが、そうのんびりしてもいられない事態が起きつつあります。このままでは近々、医療が本格的に手の届かないものになってしまうかもしれないのです。
 その伏線はすでにあります。
 まずは「ドラッグラグ」。海外では当たり前に使用されている薬が国内では未承認で使えないことがあります。10年、20年単位で遅れているものもあり、新薬を待ち望む患者にとっては死活問題です。
 そして薬価問題。ようやく薬が承認されても、価格が高くて使用を諦める人たちもいます。特に、白血病の特効薬「グリベック」のように、薬を使っている限り病気を抑え込んでいられるけれども、やめればいつ発症するかわからない、という場合は深刻です。「お金の切れ目が命の切れ目」となりかねません。残念ながら最悪の事態も実際に出てきてしまっています。

ゲノムが鍵

 ドラッグラグの原因としては、医師や参加する患者の不足で治験が進まない、厚労省の審査期間が長い、といったことの他に、日本での開発着手の遅れが挙げられます。世界の製薬企業はもちろん日本国内の製薬企業も、新薬はまず欧米で開発して日本はその後、というのが実情です。
 一方で、最新技術を使って開発される近年の新薬は、研究から商品化に結びつく確率が非常に低く、開発期間も長期化しています。そのため開発コストもうなぎ上り。まして患者数の少ない疾病の治療薬であれば、それなりに高価格でないとコストが回収できないという事情が高い薬価の背景に隠れています。
 こうしてみると、現在のように日本での開発が後回しにされる状態を続ける限り、ドラッグラグも薬価問題も解決しそうにありません。開発競争ではアメリカに既に大きく水をあけられています。薬の特許は20年。その間ずっと日本は高い薬の買い手でいなければならないというわけでず。
 薬に限らず医療技術でも同じこと。独自の技術を持っていないために、「受けたい治療が受けられない」事態さえ起きています。動脈硬化に先進的な治療を行いたくても、必要な技術をアメリカ企業が持っていて使用を許可しなかった、という例もあります。
 ではどうしたらいいのか。一つの手は、国内でも新しい薬や医療技術を生み出せるようにすること。もう一つの手が、そうなるまでの間、「今ある安い薬をもっと効果的に使う」ことです。いずれも鍵を握っているのが「ゲノム」です。

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