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66-1-1.JPG3回シリーズのゲノムの話。最終回では、ゲノム解読やゲノム診断の光と影を見ていきます。
監修/松田浩一 東京大学医科学研究所准教授

 実際、ゲノム情報の利用目的は既に広がって、ビジネスとしても成立しつつあります。ゲノム中のどの遺伝子が何を司どっているかが明らかになってくるとともに、それを利用した「ゲノム診断」がもてはやされて始めているのです。
 ゲノム診断と一口に言ってもその中身は様々で、これまでご紹介したような遺伝子の個人差から治療の効果や副作用のリスクを予測するものも、医療ビジネスとして始動しています。のみならず、近年のゲノムビジネスを象徴、しているとも言えるのが、教育サービスでしょうか。
 これは、役割が明らかになりつつあるいくつかの遺伝子について検査を行い、その子供の潜在能力や得意・不得意分野を見極めようというもの。費用は1回数万円程度のようです。
 それが本当に可能なら、親にとっては心惹かれるビジネスですよね。確かに、遺伝子は体格や体質、病気だけにとどまらず、その人の能力や性格、才能にも少なからぬ影響を及ぼしていることが、研究から明らかになってきました。とはいえ、その人の能力や性格は、あくまで何百何千もの遺伝子があいまってもたらされるもの。単一もしくは少数の遺伝子の影響は、それぞれは極めて小さいことも明らかになっています。
 ですから、昨今のゲノム診断を使った教育ビジネスは、分かりやすく言うなら、百人編成のオーケストラが奏でる音楽の良し悪しを数名の奏者の出来不出来で評価しよう、というのと同じです。もちろん、あるバイオリンが壊れていたり、素人が調子っぱずれの音を出していたら、確かに音楽全体がおかしくなるかもしれません。これは、前回お示しした単因子遺伝病に相当します。しかし普通に演奏している演奏家それぞれの個性の違いから、オーケストラ全体の音楽を語ることはできないですよね。ですから、たった数種類の遺伝子から子どもの性格や能力を診断することがいかに乱暴なやり方か、ということになります。
 ゲノム診断ビジネスの可能性が広がるにつれて、その信憑性の見極めが大事になってきます。必要性や意義も含め、事前に慎重に検討すべきと心得ておいてください。

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