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梅村聡の目⑬ がん登録は国民のもの 医療を使いこなす手段

新聞やテレビで毎回大きく報道される「がんの5年生存率」。実はたった6府県のデータで出されているものだと知っていましたか? 参議院予算委員会で野田佳彦首相に質問しました。

 私は大阪府選挙区選出の参議院議員で、私の前に務めておられたのが山本孝史さんという方です。
 彼は末期の胸腺がんにかかっており、06年5月の参議院本会議でそれを自ら公表し、がん対策基本法の必要性を訴えました。その演説を見た時、私は政治家の力を感じ、初めて自分が国会へ行くということを意識しました。
 がん医療水準の地域格差解消や国と自治体の総合的な取り組みを求めるがん対策基本法は、山本さんたちの努力によって成立し、翌年施行されました。その年12月、山本さんは亡くなりました。
 国会議員にならないかと打診を受けた時、病魔と闘いながら演説する山本さんの壮絶な姿を思い起こし、「山本さんの後をやっていくのはなかなかしんどいことだ。無理ではないか」と何度も思いました。しかし同時に「だからこそ、やろう」とも思えました。
 がん対策は、自分にとって因縁とも言えるものなのです。

お粗末な実態

 その、がん対策基本法の附帯決議には、がん医療の向上のためにがん登録が「不可欠な制度」として盛り込まれています。
 「がん登録」の狭い意味での目的は、がんについてのデータを集めることです。がんの部位、発見時の進み具合、組織型、どんな治療を行って手術はしたのか、経過、完治したのか亡くなったのか再発したのか、副作用はどうだったかなど、がん医療に関わる様々なデータを病院内や自治体で蓄積します。年間のがん発症率なども推計でき、学術的にデータを整備できます。
 自分たちのデータを集められるだけで、国が国民の情報を管理するのかと思うかもしれませんが、そうではないのです。データ収集は、国立がん研究センターなどの機関が担当するとしても、データの利用に関しては国も一つの存在に過ぎず、医療者、一般国民、メディアなど誰もが平等に利用できるものだと考えています。
 このようにデータがあって公表されていれば、自分と同じがんの人がどういう治療をしてどういう結果になったのか、情報収集して必要な治療を選択し、がんと向き合っていくことができるのです。皆さんにはそれを知る権利があるのです。
 今は、知って当たり前のことを知れない状況とも言えます。がんは進行するので時間的余裕もありません。本来は患者が納得して治療手段を選べるようにすべきですが、現在はあまりに患者側と医療側の情報が非対称です。自分自身でよりよく医療を使えるよう、その恩恵を享受できるようにするのが、がん登録の本来の目的なのです。
 このコーナーで何度もお伝えしていますが、医療には皆さんが払う保険料や税金が使われています。そこから得られるデータは国民のものであって、医療者や学会、厚労省だけのものではないのです。
 だから先進国の多くが、法的な根拠をもって、国単位でがん登録を行っています。
 ところが日本では、地域がん登録すら、東京都と宮崎県は未実施です。おまけに自治体によってフォーマットがバラバラで、全国的な分析にもつながりません。
 日本で進まない理由として、個人情報保護法の壁があります。ただ、公益性が高い内容であれば立法措置等を通じて個人情報保護法の対象から除外して扱うことは可能です。
 私はこの問題を2月6日の参議院予算委員会で質問することに決めました。その模様は、NHKで全国中継もされることになりました。

政治決断が必要

 しかし、がん登録という言葉は、一般国民にとってなじみが薄いものでしょう。しかもNHKの国会中継は、皆さん仕事をしながらとか運転しながら聴いているもので、それだけ聴いている人はほとんどいないと思われます。
 だから私は、何かをしながら聴いていても一発で理解できるような、がん登録についての分かりやすい論点はないだろうかと探しました。行き着いたのが、がん登録体制の未整備によって引き起こされている5年生存率データの問題点でした。
 診断から5年後に生存している患者の割合を示した「5年生存率」は、国立がん研究センターが毎年公表しています。私たちも参考にしますし、OECD諸国間での比較などにもよく使われます。しかしこの統計、実は宮城、山形、新潟、福井、大阪、長崎のたった6府県のみ、日本の人口にすると約13%にしかならない母数でできたデータでした。それが、毎年大々的に報道されていたのです。がんの罹患率のデータも、たった15府県から導かれた数字でした。
 私は国会で、「正確に患者数を把握し、どんな治療が行われ、その効果はどうだったのかなどを把握することが、がん対策には必要です。しかし全国的なデータを集計、分析する体制になっていないのです」と主張し、首相の答えを求めました。
 首相は、5年生存率のデータについて「6府県のみの登録情報に基づくものであるとは承知していませんでした」と認めた上で、「まず医療機関がデータを集めることに徹すること、また生存期間を正確に把握するための調査体制をどう作るかということだと思います。こうした体制整備とともに、正確なデータに基づいた議論ができる環境を作っていくべき」と答えました。
 小宮山洋子厚生労働相は、法整備も視野に入れて、がん登録体制を整備するよう検討したいという旨の答えでした。
 がん登録は個人情報保護法の壁もあるため、厚労省だけでどうにかできる問題ではなく、政治決断が必要です。
 今までこのコーナーでお伝えしてきた問題すべてそうなのですが、行政ではどうしようもない問題を「実施する」と決めて発射台に乗せるのが政治家の仕事です。後の運用は行政に任せればいいのです。
 今回のがん登録の問題も同じで、首相と厚労相の2人から前向きな答えを引き出したのは大きな一歩だったと考えています。今後、がん登録の体制整備は動いていくでしょう。

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