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がん医療を拓く② 新薬をふるい出せ

81-2-1.JPG がん医療では、常に新薬の登場が待ち望まれています。100人の患者がいれば100通りのがんがあるからです。しかし新薬の探索は、砂山から一粒の金を見つけ出すようなもの。今回はそのユニークな手法と成果をご紹介します。

81-2.2.JPG 今日、がんの薬物治療は、手術や放射線と並ぶ標準治療となっています。しかしその歴史はまだ1世紀にも満たないもの。それでも1980年代、分子生物学が大きく進展し、がんが増えるメカニズムが次第に明らかになると、薬物治療も変貌を遂げました。がん細胞と正常細胞の違いを遺伝子レベル、分子レベルで突き止めて治療の狙いを定める「分子標的治療」が大きく発展してきたのです。
 4月号でご紹介したキナーゼ阻害剤も、分子標的薬です。キナーゼは細胞間の情報(信号)を伝える酵素。ある種のキナーゼは細胞増殖のスイッチをオンにし、ドミノ倒しのように反応を伝えていきます。これが無秩序につくられれば、細胞も無秩序に増殖してしまいます。それが、がんです。逆にドミノを1個どけてしまえば、そこで反応がストップしてがんの増殖を止められるだろう、というのが、キナーゼ阻害剤によるがん治療というわけです。
 数百種類もあるキナーゼの中で、PI3キナーゼと呼ばれる一群は細胞増殖に向かう反応のかなり上流で働き、がんで特に活性化して〝ドミノ倒し〟に関与していることも、2003年頃までには分かっていました。そこで様々なPI3キナーゼ阻害剤の開発が試みられてきたのですが、毒性が強すぎて抗がん剤としてふさわしくないものしか見つかっていませんでした。

ZSTK474

 そこへ登場したのがZSTK474と呼ばれるPI3キナーゼ阻害剤です。2004年、がん研究会がん化学療法センター分子薬理部(矢守隆夫部長)が世界に先駆け、全薬工業と共同で開発しました。矢守部長によれば「それまでに見つかっていたPI3キナーゼ阻害剤に比べて副作用が少なく、画期的な発見でした。実用化に向けて米国で臨床試験(治験)が進められています」とのこと。現在では、さらに複数のPI3キナーゼ阻害剤が世界各国で臨床試験段階にあるそうです。
81-2.1.JPG ここでつい気になってしまうのが、「ZSTK474がどんながんに効くのか」という点。しかし、ZSTK474の開発は、「がん治療効果を期待できるキナーゼ阻害剤の発見」というところから始まっています。最初から胃がんや肺がんなど具体的ながんを想定して薬を探し始めたのではないのです。そうなると、「ある薬を試験管の中でがん細胞に直接かけた場合には期待通りに作用しても、それがヒトの体の中に入ってからどう働くかは、非臨床研究段階では目星をつけられる程度にとどまります」。最終的には治験で人に投与して確かめるしかないのです。
 新薬の開発はたいへん厳しく、基礎研究段階でほとんどの"新薬候補"が次々に脱落していきます。有効性や安全性に明らかに問題があれば、治験にかけるまでもありませんよね。ZSTK474のように、治験まで到達するのはかなりの快挙です。
 「がん医療における基礎研究は、農業に例えて言うなら、土を耕すこと。そこからすぐ収穫というわけにはいきませんし、収穫が得られないリスクもあります。しかし、実りを得ようとするならば、土作りは絶対に欠かせないですよね」
 それと同じように、がんの基礎研究をおろそかにしては、新薬を生み出すなど不可能、というわけです。

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