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梅村聡の目㉖ 地域医療の崩壊招く劇毒 サ高住業者の患者斡旋

高齢者用施設に入居している患者を開業医に斡旋しキックバックを得るビジネスが、全国に広がりつつあります。高齢者が望む最期を迎えられなかったり、地域の救急医療を崩壊させたりする危険性もはらんでいます。国会質問しました。

 福岡県の開業医の方から、1通のメールと録音テープが届きました。テープを再生すると「近隣にサ高住ができました。入居者1人につき毎月1万5750円払ってもらえたら、先生をその患者さんを担当する在宅医として登録します」という電話のやり取りが録音されていました。

 サ高住は「サービス付き高齢者向け住宅」の略称です。安否確認や生活相談を受けられるバリアフリー建築住宅を指します。厚生労働省と国土交通省の所管で、都道府県が住宅を登録し、事業者への指導・監督を行っています。

 良い住宅も多いのですが、冒頭のエピソードが示すように、新しく入居する患者を医師に紹介して毎月一定のキックバックを得るビジネスが広がっていると、国内各地で耳にするようになりました。

 1人の患者から毎月得られる診療報酬の2割程度がキックバックの「相場」のようです。しかし、医療機関に支払われる診療報酬は、それぞれの医療技術や治療法、手技などにかかるコストを調べた「医療経済実態調査」に基づいて国が設定しています。コストの中には患者斡旋料など含まれていません。

 ちょっと考えただけでも、キックバック分をダンピングした形になる在宅医の医療の質が十分なものになるとは考えにくいところです。

規制する法令なし

 元々日本の医療保険制度によるお金の流れは、患者が医療機関を選んで医療を受け、診療報酬の一定の負担割合を窓口で支払うという形のはずです。そして診療報酬の元を辿れば、国民が払う保険料と税金です。そもそも医療は非営利で行われるものであって、収益が上がったとしても再投資へ回すことになっていて、利益を配分してはいけません。患者斡旋によって利益を得るビジネスなど起こってはならないのです。

 こうした「患者斡旋」を規制するものとして、厚労省の出した「保険医療機関及び保険医療養担当規則」があります。特定の保険薬局に処方箋を持った患者を誘導してはならず、患者を紹介することでお金のやり取りをしてはならないと定めています。違反すれば、薬局や医療機関は保険指定取り消し処分を受けることがあります。しかし保険から直接支払いを受けない業種については、患者斡旋を規制する法令がありません。

 私は厚労省が現状を把握しているかどうか、2013年2月20日の参議院予算委員会で質問しました。田村憲久厚労大臣は「(高齢者施設での患者斡旋が)あることは知っているが、どこまで広がっているかは分からない」と答えました。私が「原資は診療報酬であり、国民の払う保険料と税金が入っています。保険薬局がやったら罪になることであり、全く同じ構図です。厚労省として明確に禁止すべきではないでしょうか」と言ったのに対して、大臣は「実態調査をしてみないといけない。過剰な診療や制限があったら根本的な問題なので、一定の対応をしていかないといけない」と答えました。

 その日の午後、ある国会議員が私のところにやってきて、この質問を褒めてくれました。地元の医師会や歯科医師会から、同じことを相談されているということでした。しかもその地域では斡旋料が診療報酬の5割だというので大変に驚きました。

感覚のずれた厚労省

 質問の数日前、厚労省のある官僚とこの件について意見交換した時、その官僚は「何が悪いのですか?」とキョトンとしていました。自分たちの設定している診療報酬点数にコストとして想定していないものが入ってきているのに、当事者意識に欠けているとしか言いようがありません。

 しかも厚労省は地域全体で高齢者医療を支えていく「地域包括ケア」を推進するため、サ高住の建設を推奨しています。ただし、サ高住は介護施設ではありませんから、外部の訪問介護や訪問診療などのサービスを使う必要があります。入居する本人や家族の経済力、どんなサービスが必要で、どんな最期を迎えたいか一緒に考えてくれる優秀な在宅医とケアマネジャーの存在が不可欠です。

 患者斡旋ビジネスに乗る登録医は施設から遠い所に住んでいることもよくあり、施設の管理人が登録医から「何かあったらこっちには連絡しないで、救急車で病院に運んでほしい」と言われているという話も聞きます。そんな状態では、急変時に管理人が「とりあえず」と救急車を呼び、搬送先で本人の望まない医療が施される可能性もありますから、患者さんの「自己決定権」の問題にもつながります。加えて、あちこちの施設から搬送依頼があると、地域の救急医療を圧迫し、結果として搬送を受け入れてもらえないことが増えるかもしれません。こんなことが続けば、勤務医は在宅医に不信感を持ち、医療連携がうまくいかなくなる可能性だってあります。

 その危機感がない厚労省は感覚がずれていると思います。

 私は国会質問の最後で、安倍晋三首相に「(社会保障・税の)一体改革というのは、給付と負担の問題だけではないのです。約60年間続いてきた医療保険制度、制度ができて13年になる介護保険制度。これらが出合った時にビジネスが生まれ、結果、地域医療を疲弊させたり、地域包括ケアに逆行することも起こる。こういったことを見直すということも、社会保障の議論の中で必要だと思います」と言いました。首相からは、「本来の医療の在り方を歪める危険性があるということなので、厚労省において実態を把握していく必要があるだろう。それに応じている医師側、本来はそれぞれの医師がそういった斡旋を必要としない中で医療行為が行われているはずなので、どうしてそういう歪んだ状態になっているか、実態を把握する必要があると思う」という答弁を得ました。

 医療界もプライドを持ち、患者斡旋ビジネスに乗るような医師を野放しにしないような努力をすべきだと思います。

 と同時に国民、患者さんも、この問題の根深さに気づいていただければと思います。厚労省がこれからどう対策していくか、一緒にチェックしていただきたいと思います。

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