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梅村聡の目㉗ 医療水準の維持向上に必要な保険外併用療養

「混合診療」を拡大せよとか反対だとか、マスコミでも盛んに報じられていますが、ハッキリした定義のないまま様々に議論され、国民の間に誤解も広がっています。国民の皆さんに、正しく理解して国民皆保険制度について考えてもらいたいと思い、国会質問しました。

 原則として、公的保険で認められている治療法と、そうではない治療法を併用した時には、保険から給付を受けることができません。例えばがん患者が、公的保険で認められている抗がん剤治療を受けながら、日本でまだ承認されていない抗がん剤治療も一緒に受けた場合、保険で認められている分の治療も全額自費負担になります。

 これが、いわゆる「混合診療」の禁止です。

 その理由として厚労省は「保険外の負担を患者に求めることが一般化すると、患者の負担が不当に拡大するおそれ」「科学的根拠のない特殊な医療の実施を助長するおそれ」があるとしています。

「混合できる診療」

 一方で、例外として保険診療と併用できる「保険外併用療養」と呼ばれるものがあります。一つは差額ベッドや時間外診療などの「選定療養」。もう一つは、今後保険診療に導入していくための評価を行う「評価療養」です。

 後者の「評価療養」は、医学と医療技術が日夜発展を続け新しい薬や医療機器・技術が生まれていることから、それらの有効性や安全性などを検討し、将来的に保険診療に採用していくための制度です。脳腫瘍の治療に使われるガンマナイフなど63の技術がこの制度を経て保険適用されました。現在も、国の「先進医療専門家会議」で認められたがんの陽子線治療や重粒子線治療など65技術が、保険適用外ながら保険診療との併用を認められています。

 「評価療養」制度で新しい技術が保険診療へ導入され、古くなった技術は診療報酬改定で点数を下げられます。こういう仕組みによって、医療機関は報酬の高い新しい技術を導入するよう誘導され、日本の医療技術の水準も維持・向上されています。

混乱させる報道

 私は以前から、「混合診療」を巡る議論に疑問を感じていたため、正確な定義を調べてみました。すると「混合診療」という言葉は、行政用語でも法律用語でも存在しないことが分かりました。厚生労働省の資料も必ず「いわゆる『混合診療』」となっています。

 保険診療と保険外診療の併用を、何でもかんでも一緒くたに「混合診療」として議論してきたから、人によって指すものが異なり、話が噛み合わなかったのです。

 典型的な例を挙げます。

 2月に行われた政府の規制改革会議の第2回会合で「これまでに提起されている課題の代表例」として、健康・医療分野13項目の中に「保険外併用療養の更なる範囲拡大」が挙げられました。「保険診療と保険外診療の併用制度について、先進的な医療技術の恩恵を患者が受けられるようにする観点から、先進的な医療技術全般(薬剤を用いない医療技術、再生医療等)にまでその範囲を拡大すべきではないか」という内容です。

 しかし翌日の新聞各紙は「混合診療の範囲拡大へ」などと見出しを打ちました。これでは、国民の間に誤解が広がるだけです。

 私は、2月20日の参議院予算委員会で田村憲久・厚労大臣に質問しました。まず「混合診療」という言葉の定義を尋ねると、「混合診療という言葉自体どういう概念で使われているのか、私自身把握していないし、理解していない。行政用語としても、法律用語としても、混合診療という言葉はない」という返答でした。「混合診療」と「保険外併用療養」の言葉も同じ意味ではないという回答でした。

保険外併用療養の運用改善が大切

 もちろん、保険外併用療養も、中身や運用には改善すべき点が大いにあります。

 現在、医療技術を保険診療に採用するか否か検討する際に、需要、効果と効能、技術の単価、単年度予算の中でどれだけの財源が必要になるか、といったミクロの議論しか行われていません。

 しかし、例えば糖尿病などの生活習慣病に再生医療が採り入れられることで、これまで必要だった治療や薬が要らなくなれば、トータルで医療費や需要の削減といった効果が生まれる可能性だってあります。このようにマクロな視点からも評価を加えれば、より国民にとって必要な医療技術が保険診療に採用されていくと思います。

 田村大臣には、運用改善を強く要望しました。

 保険診療と保険外診療の併用を全面的に解禁するか否かの議論より、現在の保険外併用
療養の運用改善の方が重要だと思います。

 しかし、一般の方は「でも、新しい医療技術を自費で受けた時でも、それ以外の医療部分に保険が併用して使える『混合診療』なら、今より安上がりでいいじゃないの?」と考えるかもしれません。また場合によっては、健康な人は「保険料が安くなるのであれば、公的保険が小さくなるのは良いことではないか」と思う可能性もあります。

 医療界は、現在の国民皆保険制度のルールや保険外併用療養制度の仕組みについて広く周知していく必要があります。その上で国民に選択してもらえばよいと考えます。

 私自身は、現在の国民皆保険制度を維持した上で、保険外併用療養制度の運用改善を行っていくことが、現時点ではベストだと思っています。国民皆保険制度が維持されれば、新たな民間保険に入る必要もなく、その分減らなくて済む可処分所得が経済成長に寄与する可能性もあるでしょう。

 こう考えていけば、国民皆保険制度の維持は、実は医療界ではなく国民の側が真っ先に主張するべきことではないでしょうか。現在は医療関係団体が、皆保険制度維持と「混合診療」解禁反対を声高に主張しているため、「既得権益のため」としか思ってもらえません。

 繰り返しになりますが、医療界としては、国民皆保険制度や保険外併用療養の正しい知識と考え方について国民に伝える必要があります。

 一方の国民の皆さんにも、新しい医療技術が保険診療に導入されている過程を知っていただき、その上で国民皆保険制度が自分たちにとって本当に必要かどうか考えていただきたいと思っています。

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