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神経伝達を妨げる。だからフグ毒は怖い~大人も知りたい新保健理科⑧

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 前回に引き続き、食中毒の話をしたいと思います。薬の副作用(毒性)には敏感でも、フグ毒や毒キノコといった自然毒に対しては油断してしまう方がいらっしゃいます。食べ物だから自分で加減すれば大丈夫と過信してしまうのかもしれません。しかし、これらの毒がどれだけ危険なのかを理解していれば、たとえわずかな量でも絶対に体内に入れたくないと思うようになるはずです。

神経に作用する毒

 ここでは、フグ毒を採り上げます。テトロドトキシンと呼ばれる成分です。厚生労働省のサイト内にある「自然毒のリスクプロファイル:魚類:フグ毒」のページによると、「わが国では年間に約30件のフグ毒中毒が発生」しているとのこと。死亡例もあります。フグ専門店ではなく、「釣り人や素人による家庭料理が原因になることが多い」そうです。

 同ページでは、テトロドトキシンについて、「骨格筋や神経の膜電位依存性ナトリウムイオンチャネルに結合し、チャネル内へのナトリウムイオンの流入を阻害して神経伝達を遮断する神経毒である」と書かれています。

 神経毒という言葉だけでも十分に危険性は感じますが、科学用語が多いため、どのような毒なのかを具体的に想像するのは難しいことと思います。これらの用語は主に高校生物ⅠやⅡで学習します。今どきの多くの高校生が履修する生物基礎には出てきません。大抵の方も神経細胞のつくりについて、保健や中学理科で学習した程度で、よくイメージできないと思います。そこで、神経伝達がどのように行われているのかということからご説明します。

神経伝達の仕組み

 神経細胞は図のような形をしています。何も刺激がない状態では、細胞膜の外側が+(プラス)、細胞膜の内側は-(マイナス)の電荷を帯びています。

 神経細胞の端に刺激が伝わると、その隣の軸索の部分で、細胞膜の内側の状態が少しだけ+に動きます。+が一定以上に大きくなると、細胞膜にあるナトリウムイオンチャネルというものが開いて、細胞膜の外側から内側に+の電荷を持つナトリウムイオンが一気に流れ込みます。その結果、細胞膜の内側が相対的に+、外側が-と電位の向きが反対になり、細胞の中に電位が発生したように見えます。この状態になった時、活動電位が発生したと言います。

 この後、この刺激を受けた部分の+の状態は、隣にある-で薄められ、やがて元の状態に戻っていきますが、それは隣の部分が+に動くということでもあり、今度は隣でナトリウムチャネルが開いて活動電位が発生します。それが、さらに、その隣の部分を+に変えてナトリウムチャネルが開いて活動電位を発生しと、どんどん繰り返され、電流が流れていくことになるのです。一度ナトリウムイオンが細胞の内側に入った所では、しばらくチャネルが開かないため、電流は後戻りすることなく一方向に伝わります。

チャネルが開かない

 この神経伝達とテトロドトキシンがどう関わっているかということですが、テトロドトキシンはナトリウムチャネルのゲートに結合してしまい、開かないようにしてしまいます。そうなると活動電位を発生させることができないので、神経伝達が遮断されてしまうのです。その結果、神経に制御されている臓器が働かなくなりますので、致命的な毒性となります。しかも、一度くっついたら離れないという不可逆的な結合です。その神経は二度と電気を伝えなくなるわけです。

 一度くっついたら離れないということを知ったら、ちょっとだけ試してみようかなんて気は、なくなりますよね。

 ちなみに、フグにもナトリウムチャネルがあります。しかし、フグのチャネルはヒトのものと形が異なっているため、テトロドトキシンが結合しないのです。また、フグがテトロドトキシンを産生していると思われているようですが、元は海の中の細菌が作る毒です。それを食べる小さな魚、それを食べる大きな魚という食物連鎖の結果、フグに蓄積されます。テトロドトキシンの食物連鎖の頂点に立ってしまわないよう、毒性をよく理解し、安全に美味しくフグを食べるよう心掛けてください。

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