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ウイルス性肝炎 症状なくても検診を~大人も知りたい新保健理科⑩

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 私たちは肝臓について、割と詳しく中学理科や高校生物で学習しています。血糖値や体温の調節、解毒、赤血球の分解、胆汁の生成、尿素の合成といった重要な働きをする臓器であるということです。また、ダメージを受けても再生することを教えている教科書もあります。肝臓は、自己再生能力が高く、もし一部が再生できなくなっても元気な細胞だけでフル回転して頑張る素晴らしい臓器なのです。

 これを保健の視点から言うと、とことんダメになってからSOSを出す要注意臓器ということになります。

 肝臓の細胞がダメージを受けると、やがて繊維状になって固くなります。これが肝硬変です。そうなると肝臓の中で血液がうまく流れず「門脈」の圧力が高くなります。そして食道へと続く静脈に血液が迂回するようになり、食道静脈瘤が出来、破れて大出血を起こしてしまいます。また、肝臓で解毒されなかったアンモニアが脳へ移行すると錯乱状態や昏睡(肝性脳症)をひき起こします。肝臓とかけ離れた場所に影響が出るのでビックリされますが、血液や栄養が集まる肝臓だからこその症状なのです。肝硬変から、肝がんへと進むこともあります。今回は、肝臓だけでなく、血液や栄養の全体の流れが分かるような図解本もご紹介します。ぜひ肝臓の重要さを再確認なさってください。

 さて、その肝臓の細胞にダメージを与える大きな原因が、肝炎ウイルスの感染です。

インターフェロン

 肝炎ウイルスは現在、ABCDEの5型が見つかっています。

 そのうちC型肝炎で、最近になって治療法が大きく進歩しました。

 C型ウイルスが発見されたのは1989年。まだ30年も経っていません。血液を介して感染するため、皆さんもよくご存じのように、注射針の使い回しや輸血により、知らないうちにC型肝炎ウイルスに感染してしまい、住まわせ続けている人たち(キャリアと言います)がたくさんいらっしゃいます。

 国は、どういう人が感染している可能性があるのかを伝え、検査を推進し、医療費助成を行うなどの対策を講じてきました。しかし、統計で算出された数から考えると、未だ感染に気づかず検査すら受けていない人たちが大勢いらっしゃいます。自覚症状がないので、まさか自分が感染しているとは思わないのでしょう。

 これまでの治療法ですが、1992年にインターフェロンが投与されるようになりました。2001年からは抗ウイスル薬との併用も行われ、2003年には長く体内に留めておけるように改良したタイプのインターフェロンも使用されるようになりました。しかし、インターフェロンによる治療は大変つらいものでした。

 そのつらさは、投与されたことがない人でも想像することができます。インフルエンザにかかった時のことを思い出してください。熱が出て節々が痛くなって、全身がだるくて、本当につらい症状が出ますよね。これは、細胞から作り出されたインターフェロンが、ウイルスを排除しようと、ウイルスに感染した細胞ごとやっつけているからです。この状態が2、3日続いただけでも大変なのに、C型肝炎の患者さんは、体が作る量よりも多量のインターフェロンを注射されます。相当な期間、相当なつらさに耐えなければならないことになります。

 今でも思い出すのですが、注射の度に「私の副作用は軽いのよ、平気なの」と笑顔でおっしゃる患者さんがいました。しかし、ご家族の方からは、ご自宅では相当苦しんでいることを、そっと伺っておりました。インターフェロンの治療を受けられない患者さんもいるのだから、受けられるだけでもありがたく人前で決して泣き言は言わないと頑張っておられたそうです。体力のないご高齢の方などは肝臓を庇護する対症療法しかできず、つらくてもいいからインターフェロンによる治療を受けたいのに、と悔しい思いをされた人もいたのです。

そして新薬が出た

 ようやく2014年と2015年に相次いで、インターフェロンとは異なるメカニズムで、しかも注射しないで済む飲み薬が登場しました。ウイルスが増える仕組みを邪魔し、増殖そのものをストップさせるのです。効果が高く、インターフェロンの時のような副作用も少なめです。高齢でインターフェロンの治療を受けられなかった患者さん、インターフェロンの副作用に苦しんでいた患者さんにとって、待ち望んでいた薬でした。

手遅れになる前に

 今回は詳しく書きませんが、C型肝炎の患者さんはウイルスの遺伝子型によっていくつかに分類され、それぞれに可能な治療法が決まっています。これらの新しい薬についても、どういう患者さんに使えるかが明確に決められています。ご自分がどの治療が受けられるかは、必ず医療機関で相談なさってください。

 なお折角の治療法の進歩ですが、のんびりしていると、進行し過ぎてしまったり、治療対象者の基準から外れてしまったりして、希望する治療を受けられなくなることがあります。まずは、C型肝炎ウイルスを持っていないか、そして、肝臓の細胞がダメージを受けていないかといった検診を受けてください。そして、日頃から積極的に肝臓のSOSを拾ってあげるよう心掛けていただければと思います。

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