文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

身近な植物にも薬効 服薬時は気をつけて~大人も知りたい新保健理科⑭

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 もうだいぶ前になりますが、皮膚疾患の患者さんに、お薬をお出しした時の話です。何回か続けて同じ薬が出ていたのですが、その患者さんから「なんだか難しそうな名前だし、本当に効くのかよく分からないし、飲む必要があるの?」と訊かれました。少々不満そうな口ぶりでした。もちろん必要があるから処方されていたのですが、あまりストレートな返答をするのもどうかと思い、「ハトムギってご存じですか? それがお薬になっているのですよ」と言ってみました。すると、急ににっこりされ、「よかった。それならちゃんと飲むわ」とおっしゃいました。

 その人は、ハトムギの名前をCMで知っていて、健康的な美しさを意識して自分でも時々ハトムギのお茶を飲むことがあったそうです。それだけなのに、不信感や嫌悪感を抱いていた薬のイメージが一変してしまったことに、とても驚きました。

 服薬指導をしていると、どうしても最初から薬に対してネガティブなイメージが大きく、飲みたくないという意識が強い患者さんがいらっしゃいます。そういう方は、薬をわざと飲まなかったり、いつの間にかすっかり飲むことをやめてしまったりします。そして医師の診察時には飲んでいると告げるため、医師は服薬しても治療の成果が得られていないと誤解し、同じ薬が継続して処方されたり増量されたりします。そうなると悪循環。患者さんは、ますますその薬を飲むことが嫌になってしまいます。

 必要だから医師は薬を出しています。ですが必要性を真正面から告げても患者さんの気持ちは変わらないことが多く、何とか薬に関心を持っていただき、飲もうと思っていただくことが大事になります。たまたまこの患者さんにとっては自分が見聞きしている話とつながったことで、服薬意欲が向上するというプラスに働いたのです。

 このケースのように、難しい名前の薬であっても、身近な飲食物の主成分と同一であることがあります。薬は工場で人工的に製造するものというイメージが強いですが、よく考えてみれば、そもそも薬というものは、薬草など自然界にあるものを選んで使ったのが始まりです。飲食物と薬の成分が一緒でも不思議なことではありません。

過剰摂取の危険性

 植物の成分が薬と一緒ということが、マイナスに働くこともあります。

 これも以前経験した話ですが、肝臓のお薬を長い期間飲んでいる方がいらっしゃいました。ある時「知人に勧められて飲んでいる健康茶が美味しいので、毎日たくさん飲むようになった」と言います。気になって詳しく聞いてみると、そのお茶にはカンゾウがたっぷりと含まれていることが分かりました。

 一瞬ヒヤっとしました。この患者さんに処方されていた薬はグリチルリチン酸で、カンゾウに含まれている主成分と同一だったからです。幸い問題となる量ではなかったのですが、もし、せっせと量を増やして摂取し続けていたら、医師の想定よりずっと多い量を体内に入れてしまうところでした。

 薬を飲んでいる方は薬局で服薬指導を受けているので、薬の効きめが強くなったり弱くなったりする食品があることはよくご存じです。ちゃんと注意もなさっています。その一方、そういう人でさえ、全く同じ成分を含む飲食物があるという認識は低いようです。特に、薬をきちんと飲み、病気を治すことに一所懸命な方ほど、飲食物も驚くほど多量を毎日きっちりと摂取されるので、要注意です。

薬草図鑑から気づき

 さて、身の周りには、漢方、生薬、民間薬、ハーブ、薬草などと言った言葉があるように、古くから、滋養強壮や病気を治すために利用された動植物があり、何がどういう症状に効果があるかといったことが伝えられています。

 今回ご紹介する書籍『薬草の博物誌』によると、推古天皇が家臣を伴って薬猟(くすりがり)をしたという記録が日本書記に残っており、これが日本最古の生薬採集とされているそうです。その後、本草学として発展したのは江戸時代です。幕府が国政として原料となる薬草に力を入れ、多くの本草図も出版されました。本草図はいわゆる薬草の図鑑ですが、今ではすっかり園芸でお馴染みの植物が多々登場します。それらが昔は薬として活躍していたと分かります。

 本草図では、植物の必要な部分が正確に丁寧にスケッチされ、驚くほどきれいに着色されています。例えば根に薬効がある場合は、葉や花といった地上に出ている部分だけでなく、根のつくりもリアルに描かれています。絵の横には、開花時期がメモ程度に書かれているものもあれば、解説まで記されているものもあります。

 多くの方は自分で薬草を採ってきて煎じることはされないので、薬草図鑑や薬草と毒草との見分け方といった本やサイトとは無縁と思います。確かに未経験で不慣れな人が自己判断で安易に採取されないほうが良いので、積極的に薬草を利用することはお勧めしません。ですが、絵や園芸が好きな方は、きっと本草図を楽しくご覧いただけると思います。

 物は試しと思って、薬草の本やサイトを眺めてみてください。そうすれば飲食物の原料に何らかの薬効成分があるかもしれないという意識が芽生えるようになり、服薬時にも留意しやすくなるのではないでしょうか。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
  • 「認知症 それがどうした!」電子書籍で一部無料公開中
サイト内検索
掲載号別アーカイブ