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長引く咳は受診を 安易に咳止めはダメ~大人も知りたい新保健理科⑲

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 風邪をひいた後、いつまでも咳だけが続くということないでしょうか。そして、気になって受診したことがあるけれど、医師から「風邪が長引いているのでしょう」としか言われなかったので、それ以降は同じようなことがあっても市販の咳止め薬を飲んで済ませているということ、ないでしょうか。

 これはダメです。咳の原因は多岐にわたり、原因にあった治療を行うことが大切だからです。

ガイドライン出来た

 確かに、少し前までは、医師も「風邪が長引いているのでしょう」と言うことが多かったと思います。簡単に○○でしょうと原因を決めつけられるものではないため、ひとまず様子を見て、原因を探っていきましょう、という意味で医師はそう告げていました。

 ただ、そう言われた患者さんは風邪と断定されたと捉えてしまいます。その後さらに咳が続いたとしても、風邪だからそのうち治るのだろうと思い、再度受診しようとは思いません。医師も、その後受診がないことから、やっぱり風邪だったのだと思ってしまう、という悪循環でした。

 しかし、今はもう、そういうことはありません。「それ位の期間咳が続いているのならば、咳喘息かもしれないですね」とか、「慢性疾患の可能性もあるから、鼻の具合も調べましょう」という風に具体的に医師が話すようになってきました。2005年に日本呼吸器学会から「咳嗽に関するガイドライン」が出され、咳に対する診断や治療法がどんどん明確になったからだと思われます。

 咳嗽というのは医学用語で、咳のことです。咳について、それまでガイドラインがなかったこと自体も不思議ですね。このガイドラインは2012年に改訂され第2版が出ており、それによると、さらなる臨床経験を蓄積し、5年以内にまた改訂したいと書かれています。咳は、古くて新しい領域なのです。

3週間がメド

 さて、その第2版のガイドラインによると、咳は、①期間と②喀痰(痰のこと)の有無で、分類されます。

 期間についての記述を引用すると「咳嗽は持続期間により、3週間未満の急性咳嗽、3週間以上8週間未満の遷延(せんえん)性咳嗽、8週間以上の慢性咳嗽に分類する。このような分類を設けることにより、咳嗽の原因疾患がある程度推定できる。」と書かれています。このページには概念図もあり、分かりやすく示されています。このガイドラインはウエブ上で読むことができますので興味がある方はご覧ください。

 端的に言うと、要はウイルス感染による咳なのかそうでないのか、期間を1つの判断基準にし、的確な治療をしようというものです。

 風邪は、大抵ウイルスによるものです。体に入ってきたウイルスに対して免疫細胞が闘い、大体1週間くらいでウイルスをやっつけることができます。そのため、長引いても症状は3週間以内に収まるはずなので、それ以上の期間になれば、ウイルスではない他の感染症か、アレルギーなどの感染症以外の原因を考えた方が良いということなのです。

 つまり、患者に安易に「長引いた風邪」という診断を下す医師は最早いないということになります。患者さんの側も、3週間以上咳が続く時は受診が必要と思っていただければよいと思います。

痰を出しやすくする

 痰の有無による分類では、痰を伴う咳は湿性咳嗽、痰を伴わないコンコンという咳は乾性咳嗽と呼ばれています。どちらのタイプかで、治療法が変わります。

 そもそも痰がなぜ出るかご存じでしょうか。小中学校の理科と保健の教科書を見ましたが痰そのものについての記載はなく、痰とは何かと学習することはないようです。ですが、小学5・6年の保健の教科書に、「のどのおくでは、ねん液が病原体をつかまえ、細かな毛が動いて、それを外に出します」、「せん毛とねん液 病原体が入るのを防ぐ」と記載があり、高校の生物基礎では「気管内の表面にある繊毛※は、粘液によってとらえた異物を外に押し出す」と書かれていました。「外に出てきたもの」、それが痰なのです。(※原文通りの表記)

 気管や気管支の表面には、「粘液を分泌する細胞」と「線毛(繊毛)を持っている細胞」が並んでいます。粘液により常に湿っていて、空気と共に入ってきた細菌やウイルスといった病原体、埃、塵などを粘液でキャッチします。それを線毛が鞭で打つような動きをして、口の方へ押し出していきます。粘液には病原体を攻撃する物が含まれており、好中球もやってきて闘うので、色着いた痰になることがあります。

 粘液は90%以上が水で、健康なときは蒸気となって呼気と一緒に体外に排出されますし、一部は体の中に入るので、痰にはなりません。粘液にはムチンという物質が少々含まれていますが、病原体や異物があるときはムチンが多くなり、このムチンによって液はとても粘っこくなり、絡まります。そのため、粘度を下げて痰を出しやすく(去痰)する薬が処方されます。

 痰を伴わない場合、粘液で絡めて取るような物が原因ではないと考えられますね。最近よく見聞きする咳喘息やアトピー性咳、また、場合によっては鼻や消化器の疾患、心因性の疾患なども原因になります。

 長引く咳には必ず原因が隠れています。安易に咳止めに頼るのでなく、受診して適切な治療を受けてください。

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