都会の公園でも森林浴効果~それって本当?
「森林浴」が体に良いことはご存じの通りですが、森まで出掛けなくても体調維持効果が得られるそうです。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
森林の中を散策していると、心も体も洗われたようにスッキリしますよね。森林浴(コラム)には、ストレスホルモンの分泌を低下させ、リラックス効果があることが、多くの研究で実証されてきています。
さらに、森林浴によって免疫力がアップすることも明らかになっています。日本医科大学の研究では、東京在勤の男女を3カ所の森林環境中に2泊3日間滞在させ、森林遊歩道を散策させて免疫の変化を調べたところ、男女を問わず、NK細胞の数や活性が上昇していました。この効果は1カ月程度持続し、他方、都市部での一般旅行では同効果は得られませんでした。
緑豊かな環境に暮らす女性は、そうでない地域に住む女性に比べて12%死亡率が低いことも、ハーバード大学による8年間の追跡研究の結果、昨年報告されています。
こうした森林浴効果は、樹木から空気中に放出される「フィトンチッド」によるものとされてきました(コラム)。ただし、「フィトンチッドの実体と効果が確認できたのは、ようやくこの15年くらいのこと」と話すのは、千葉大学園芸学部緑地環境学科環境健康学領域の岩崎寛准教授です。
「技術の進歩で空気中の微量の物質の計測が可能になり、また、唾液に含まれるストレスホルモンの測定法が開発されたことで、採血など余分な測定時ストレスがなくなり、正確なデータを得られるようになりました」
芝生で血圧低下
森林浴は確かに気分爽快ですし、日常を離れることで、気分転換の効果も得られます。ただ、都市部の人々が気軽にできるものではありません。森林は、車や電車でわざわざ遠出して行く場所だからです。
そんな人に朗報があります。2007年、岩崎教授たちの研究で、都市公園内の芝生やラベンダ―畑で5分間座って休憩するだけで、ストレスが軽減し、血圧を正常値に近づける効果が観察されました。高血圧の人は血圧が下がり、低血圧の人は上がる傾向が見られたのです。
また、芝生地は癒しやリラックス感を与えて休息の場に向き、ラベンダー畑は花の美しさや香りの刺激から気分転換の場として評価できるなど、植物ごとに違った心理的効果も見られました。
どうやら、植物による健康効果は、フィトンチッドのみによるのではないらしく、身近な緑に接するだけでも生理的・心理的な健康効果が得られるというわけです。
例えば芝生などの緑地面積は、東京都内でも増えています。都はこれまで、海の森や都市公園の整備、校庭の芝生化などに取り組み、2006年度から2013年度までの7年間で、約625ヘクタール(東京ドーム約133個分)の新たな緑を創出してきたとしています。樹林面積は減少しているようですが、身近な緑は徐々に増えているのです。
隙間時間にちょっとだけオフィスを抜け出して、公園でのんびりすることで、健康維持につながり、かえって仕事の効率も改善するかもしれません。
回復力を高める
「これまでの研究から、人間は植物と関わることで、元々持っている自然治癒力を高めることができる、と説明できます」
神経系、免疫系、内分泌系のバランスの上に成り立っている体の恒常性は、日々のストレスによって脅かされます。植物との関わりはストレス緩和をもたらし、危機的状態からの回復を助ける、と岩崎教授は解説します。
「ヒトは地球上に誕生した頃、植物に囲まれて生きていました。その住環境をベースに体の恒常性維持機構も成立したのですから、現代人が植物と再び接することが自然治癒力を後押しするのは、ごく当たり前のこと。決して新しいことではないのです」