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がん免疫治療 仕組み理解を~大人も知りたい新保健理科㉔

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 最近ではがんを自ら公表する著名人が増え、その人たちの治療法についてテレビで見聞きするようになり、がんの治療法についてもよく知られるようになりました。

 内閣府による、平成28年度がん対策に関する世論調査(平成28年11月調査)によると、「がんの治療方法には、大きく手術療法、化学療法、放射線療法がある」ことを知っている人の割合は、63.7%だったそうです。

 とは言え、2人に1人ががんになる時代で、まだ3割以上の方々が治療法について十分にご存じないということになり、さらなる情報発信が必要かもしれません。ただし、今後は設問自体も変わるのではないかと思います。最近話題の「がん免疫療法」が4つ目に加わることでしょう。

 このがん免疫療法というのは、免疫の仕組みを利用した治療法で、代表的なものとして、ロハス・メディカルでも連載されていたオプジーボ(ニボルマブ)などの「免疫チェックポイント阻害薬」が挙げられます。

がん細胞をも攻撃

 さて、このがん免疫療法ですが、一般の方にはなかなか理解しづらいようです。そもそも免疫について学校で学習してこなかった方が大半なので致し方ないでしょう。

 また、今の高校生も、免疫について学習しますが、がんと免疫の関係について教わるわけではありません。免疫とは、「自己と非自己を区別して、非自己を排除する仕組み」と教わります。主に、体の外から異物が入り込んできた時に、その異物をどのように排除するかの学習です。したがって、病原体とは結び付けやすく、感染症はイメージしやすいものになっています。しかし、自分の細胞が変化したがん細胞に対して、免疫がどのように反応しているかまでは、なかなかイメージできないのです。

 がんは、元はと言えば自分の細胞です。ただし私たちの体内では、絶えず遺伝子のコピーミスが起きており、そのミスをカバーする仕組みはいくつかあるのですが、カバーしきれないとがん細胞が生じます。当然ながら正常細胞とは様相が異なる点もあるので、その差異を免疫が認識できたなら、免疫細胞は異物として排除することができます。免疫が認識できるがん特有の目印のことを、がん抗原と言います。

 大抵の場合、免疫細胞の中の「NK細胞(ナチュラルキラー細胞の略称でエヌケイ細胞と読みます)」が攻撃したり、「マクロファージ」が貪食して、大事にならずに済みます。

 それでは済まなかった場合に主として闘ってくれるのが、キラーT細胞と呼ばれるものです。ただし、このキラーT細胞にきちんと闘ってもらうためには、いくつかの条件を満たさなければなりません。

アクセルとブレーキ

 この連載では、身体の仕組みに存在する、相反する反応に着目することが多いのですが、免疫にも相反する反応があります。

 異物に対して攻撃する際に働くアクセルばかりではなく、攻撃をやめる時に働くブレーキもあるのです。

 よく考えてみると、免疫の学習では、攻撃することばかり教わり、どうなったら攻撃が終わるのかは、ほとんど話題にならないですよね。免疫の攻撃にはエネルギーが必要で、自分自身を傷つけることもありますから、アクセルがかけられっぱなしだと身体がもちません。ちゃんとブレーキ機能もあるのです。

 このブレーキの部分が、今話題の「免疫チェックポイント」です。これまでのがん免疫療法は、どちらかというとアクセル部分を強めようとする試みが多かったのですが、今は、いかにブレーキをかけさせないか、という方に注目が集まっています。

ブレーキを妨害

 キラーT細胞に付いているブレーキの一つがPD-1という分子です。がん細胞が、このPD-1とつながってしまうと、キラーT細胞ががん細胞を攻撃しなくなります。ちなみに、がん細胞側でつながる部分の分子をPD-L1と言います。

 そこで、PD-1とPD-L1がつながってしまわないよう、間に割り込もうとするのが、「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる抗体です。現在では、PD-1とつながる抗体が2種類、薬として承認されていますが、がん細胞のPD-L1につながる抗体も開発中です。また、ブレーキとなる分子はPD-1だけでなく、他にもあることが分かっていますので、それらの分子とがん細胞がつながらないようにする新薬の開発も進んでいます。

 こういった話は、一見難しく感じてしまう人が多いのですが、ご紹介する書籍だけでなく、日本癌学会の市民向け講座でも分かりやすく解説されています。同学会のウエブサイトで動画をアップしていますので、ぜひご覧になってみてください。
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