気持ちの悪循環 動くと断ち切れる~それって本当?
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うつや不安症状で、何もできずにいたりしませんか。動いてみると、案外好転するかもしれません。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
うつや不安障害で気分が落ち込んでいると、やるべきこともやる気にならず、一人じっとこもりがちになります。でも、「『どうせうまくいかない』『気が乗らない』と実際の行動を控えてしまうと、結果的に、『今日もやらなかった』『後ろ向きでダメな自分』といった自己認識が強まり、悪循環に陥ります」
そう話すのは、早稲田大学人間科学学術院臨床心理学研究領域の鈴木伸一教授です。
悪循環を断ち切るには行動すればよいのですが、「それができない」。そこで試したいのが、行動活性化療法です。
気分はさておき
「あまり気乗りがしなくても、まずは避けずにやってみよう」というのが、行動活性化療法の肝です。
普通は、気分がいいからやる、乗り気になったらやる、などと「気分⇒行動」という順序で考えるもの。そのため気分が落ち込んでいると、行動は制限されがちになります。
ところが行動が抑制され減少すると、肯定的な感情はますます小さくなり、相対的に否定的な感情や認識が大きく心を占めるようになります。
「楽しい」「嬉しい」といった肯定感情は、一人じっとしているより、自分からアクションを起こした結果生まれるもの。「行動⇒気分」、つまり行動が気分を決めることは、実は多いのです。
だから、気分や内面の問題はさて置き、とりあえず一歩踏み出す。目標や評価を先に気にせず、まずはやってみる。その結果「意外と楽しかった」と実感し、少しずつ悪循環から抜け出せるのです。
自分で"見える化"
行動活性化療法では、毎日の行動とその後の気分を1週間ほど記録し、自分で点数を付けます。自覚のなかった前向き行動と後ろ向き行動を、〝見える化〟するのです。
例えば、「面倒だったけど、友人に会ったら楽しかった」「午前中に出かけると一日活動的になれた」とか、逆に「インターネットでうつについて調べたら、かえって不安材料が増えた」とかです。
そして、定期的に40~50分のカウンセリングを受けます。
「うつ状態だと、自分の行動の本来の目的や意味、価値を見失っていることが多いので、一緒に見つめ直していきます」と鈴木教授。
その人が価値を再認識でき、前向きになれて、なおかつ取り組めそうな行動を一緒に考えた上で、「出かけてみて、途中で切り上げてもいいんじゃないですか」「たとえ理想の展開でなくても、いいじゃないですか」などと、背中を少し後押しするそうです。
同等の治療効果
行動活性化療法は、2016年12月号でご紹介した「認知行動療法」と同等の治療効果を得られることが昨年、英国から報告されています。
中~重症の成人うつ病患者440人を行動活性化療法群と認知行動療法群に分けて1年間施術したところ、どちらも半数以上、うつ症状が軽微~軽度に改善しました。両群で効果の差は見られず、治療コストは行動活性化療法の方が20%低かったそうです。
なお、認知行動療法は、マイナス感情・行動の背景にある考え方や認識の偏りを正そうと、自分自身の固定観念や内面と向き合うことから入るので、人によってはその手法自体が苦痛だったり難しかったりする場合もあります。
その点、行動活性化療法はご説明した通り、内面は後からついてくる、という発想です。認知行動療法と同様、保険点数の不充分などクリアすべき課題もありますが、公認心理師の設立など普及の土台は整備されつつあります。今後の発展に期待したいですね。