加齢と共に薬は減らそう~大人も知りたい新保健理科㉕
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吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
いきなりですが、「ポリファーマシー」という言葉をご存じですか。多剤併用とも言います。単純に、服用している薬の数が多いことだけではなく、必要以上に薬が多く処方されていて、成分の重複や、副作用の面から不適切な処方になっていることを問題視しています。
薬は5種類までに
日本老年医学会のホームページでは、同学会が作成した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」ついて掲載しており、総論のページをダウンロードできるようになっています。よかったら読者の皆さんも、一度ご覧になってください。それによると、70歳で平均6種類以上を服用しているとのこと。高齢の入院患者において、薬の数と薬物有害事象との関係を解析した報告では、6種類以上で薬物有害事象のリスクが特に増加していたそうです。薬物有害事象というのは、皆さんが普段使っている「副作用」とほぼ同じ意味です。
また、外来患者で薬の数と転倒の発生を解析した研究では、5種類以上で転倒の発生率が高かったとのことです。
これらの報告等を考慮して、日本老年医学会では、5~6種類以上を多剤併用の目安と考えています。
皆さんは、加齢と共に身体のあちらこちらに不具合が生じてくるので、薬を単純に増やせばよいと思っていませんか。今の医療では反対なのです。むしろ加齢と共に減らしていこうという考え方です。
その薬、必要ですか
もちろん、単純に数だけで判断できません。何となく習慣的に、食事と同じように複数の薬を飲むことがベースになっている方は、ポリファーマシーのことを考えた方がよいでしょう。
① 本当に薬に頼らなければならないのか、②薬を飲む最終的な目的は何か(どういう状態にならないようにすることが目的なのか)、です。そして、それらの薬に優先順位をつけてみてください。
例えば、寝つきが悪くてよく眠れない人は睡眠薬を欲しがります。高齢者に多いですね。しかし、その薬がなくても命に関わることはありません。優先順位は低くなります。高齢になるとそもそも睡眠時間が少なくなるのが当たり前なのに、若い時の睡眠時間と比べて睡眠が足りていないと思い込み、薬をもらっているのであれば、不要な薬ということになります。むしろ、もし睡眠薬の量が身体に合っていなければ、ふらつきが現れます。ふらついていると、転倒のリスクが高くなります。高齢者の転倒は「寝たきり」のきっかけになります。
寝たきりにならず健康寿命を延ばすことが、薬の目的のはずです。それなのに、「眠れない」を解消するため、かえって寝たきりのリスクを上げるのだとしたら本末転倒です。
睡眠を取ることばかり意識して、わざわざ布団に早く入る人がいますが、それでは夜中に覚醒するのは当たり前です。それなのに睡眠薬の量が足らないと勘違いをし、無駄に睡眠薬の種類や量を増やしています。まずは自分の生理現象に応じて生活リズムを再構築するところからスタートさせると、1種類でも不要な薬を減らせるかもしれません。もちろん自分勝手な判断で薬に優先順位はつけてはいけないので、医師や薬剤師にポリファーマシーの話題を持ち出して相談するとよいでしょう。
「かかりつけ」を
学校では、健康な状態における身体の仕組みを学習し、高齢になって消化管の機能や腎臓の機能が劣ってからの状態については学習しません。若い時に問題なく服薬できた薬でも、副作用が出てしまうかもしれないこと、なかなか気づきません。
また、物忘れが多くなってボーッとすることが増えたとしても、それが加齢による自然な現象なのかどうか、自分で判断できません。ある種の薬は、長く服用していると認知機能に影響が出てくることがあります。胃薬ですら、そういう類の物があるのです。例えば胃酸を抑える薬、習慣的に長期間服用していませんか?
今さら薬を1個ずつ調べるのも大変でしょう。そこで、自分を総合的かつ継続的に診てくれる「かかりつけ医」や「かかりつけ薬剤師」を作ること、ぜひともお勧めします。加齢と共に変わりゆく自分に応じたアドバイスをもらってください。
複数の医療機関を受診している場合は、同じカテゴリーのよく似た薬が重複することがあり、副作用の原因になることがあります。「かかりつけ」があると、重複分をチェックしてもらえます。また、漫然と医療を受けていると、新たな不調が現れる度に薬がプラスされ、服薬し始めたら、なかなかやめどきがありません。しかし本当は、年齢と副作用を考慮して、薬の種類をマイナスしていかなければなりません。「かかりつけ」は、あなたの今の生活習慣や生理現象を総合的に判断し、その都度優先順位をつけ、プラスやマイナスを判断し、一番よい服薬を教えてくれるはずです。
薬の効果を最大に、副作用を最小にしながら、歳をとっていきたいものです。