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細菌の悪行を歯磨きで防ぐ ~大人も知りたい保健理科 新㉖

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 学校では毎年歯科検診というのがありましたが、大人になってから歯の検診を受けている人は少ないです。大抵の人は、歯や歯の周りが痛くなってから、歯科医院に行きます。それでは、歯の健康を維持することは難しいです。歯も定期的に医師に診てもらい、予防を心がける必要があるのです。

 若い時には問題知らずで、自分は歯をきちんと磨けていると思っていても、過信は禁物です。口の中の状態は加齢と共に変化します。歯と歯の間に隙間が出来ますし、唾液の分泌量も減ります。また、手指が変形したり、何らかの痛みが生じていたりして、知らないうちに磨き残すようになっていることもあります。

感染症である

 むし歯も歯周病も、そもそもは細菌が原因です。細菌が棲みついて悪さをしているのですから、感染症と言えるでしょう。「口腔内の感染症」と意識すれば、悪さをする細菌を一刻も早く追い出したくなるし、細菌が付着したり侵入したりしないような予防にも力を入れたくなるはずです。

 ただ残念ながら、口腔内から細菌を完璧に追い出すことはできません。健康な人の口腔内でさえ、億単位の数の細菌が棲みついています。さらに、口は外部がつながっている場所で、絶えず細菌が入ってきます。

 そのため「細菌を入れない」のではなく、悪い細菌がのさばらないようにする防戦が、生きている限り365日ずっと必要です。

唾液を働かせる

 さて、むし歯の出来方をご存じでしょうか。

 学校教育では、小学校5・6年の保健の教科書に載っています。むし歯菌(教科書では、代表的な細菌の1種であるミュータンス菌と書かれています)が、食べ物などに含まれる糖分を酸に変えます。歯は酸に弱いため、酸が歯を溶かしていき、むし歯になります。ちょうど理科で、酸・アルカリについても学習するので、関連付けている教科書もあります。

 また、溶けた歯が修復されていく再石灰化について、触れている教科書もあります。「とけた歯の一部は、自然に修復が行われます。これを再石灰化といいます。ところが、歯のとけやすい状態が多かったり長かったりすると、この再石灰化の作用を上回るため、むし歯が進行します。」と書かれています。

 この記載にある「自然に修復」の時、活躍するのが唾液です。口腔内の酸を薄めて歯が溶けるのを止めると共に、唾液中に含まれるミネラル分が歯に取り込まれて再石灰化が進みます。学校では、唾液を消化と関連付けて学習するので、「消化を助ける液」という印象が強いのですが、それに限らず、多くの働きを持っています。口腔内を洗浄したり、保湿したり、口腔内のpH(酸性度)を適切に維持したり、殺菌したりもしています。

 この唾液が、寝ている時には少なくなるので、細菌が好き勝手に悪さをします。それを制するため、就寝時と起床時の歯磨きが大切になってきます。

ネバネバを除去

 細菌が糖を分解して作るのは酸だけではありません。ネバネバとしたもの(グルカン)もあります。ネバネバと細菌の集団が一塊になったものをプラーク(歯垢)と呼びます。

 ネバネバが作られて間もない頃は、歯ブラシで磨くことによって取ることができますが、24時間以上経ってくると取れにくくなり、そのうちプラーク自体が石灰化されて歯石になっていきます。歯石になってしまうと、もう手遅れ。歯科医院で、適切な器具を使って取り除いてもらうしかありません。

 このプラークを大好きなのが歯周病菌です。多くは、嫌気性菌といって無酸素状態の方が増殖しやすく、酸素が少ないプラークの中で、どんどん増殖します。

 歯周病は、文字通り「歯の周り」に不具合が起きる感染症です。細菌が増殖し、歯茎が赤く腫れ、出血します。免疫細胞がやってきて闘うのですが、炎症が酷くなってくると、歯の根元や歯茎の組織が侵されてしまいます。歯は水晶ほどの硬さのエナメル質で覆われていますが、歯茎から出ている部分(歯冠)だけが覆われているので、歯の根元は簡単にダメージを受けます。また歯を支える骨も溶け、歯がグラグラになり、やがて抜けていきます。また、歯周病菌が血管に入り、全身に回っていきます。最近では心疾患や糖尿病等などとの関連も指摘されています。

 歯周病は中高年の病気と思われがちですが、軽度なものも含めると、実は20代で約7割がかかっています。

 歯を失わないためには、磨き取れるうちに、ネバネバを除去し細菌を増やさないことです。これをプラークコントロールと呼びます。これこそ歯ブラシを使って日々行う「歯磨き」の最大の目的と言えます。そして定期的な歯科受診は、プラークコントロールできているか、チェックしてもらうことなのです。

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