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認知症行方不明者1万5千人  「徘徊」支える社会でありたい ~ハート・リング通信㊸

ハート・リング運動専務理事 早田雅美
 6月15日に警察庁から「平成28年における行方不明者の状況について」という発表がありました。2016年1年間に全国で、認知症が原因で行方が分からなくなったとして警察に届け出があった人は対前年比26.4%増の1万5432人だったそうです。
 認知症による徘徊については、平成28年3月に国立研究開発法人国立長寿医療研究センターからも「徘徊高齢者の効果的な捜索に関する研究等事業 報告書」が発表されています。平成27年度に愛知県内の54市町村で行われた調査に基づく、この報告書によると、行方不明者は「高齢者のみの世帯と独居世帯」の方が6割近くを占めました。行方不明になった場所としては自宅が51.6%、自宅から病院・散歩中などの移動中が24.3%、次いで入所型サービス事業所が4.1%でした。また、短期間のうちに何度も行方不明になっているというケースが珍しくありませんでした。

 ここで肝心なのは、発見までの時間です。不明後9時間未満で52.4%の方が発見されていますが、9時間を過ぎると発見に要する時間が次第に長くなり、当然本人の無事や健康状態にも不安が深まる結果となっています。

 近年、不安を感じる高齢者の方に登録いただいて地域で見守るようなネットワークが普及してきています。一定の条件の元で、ご本人の名前や連絡先を書いたキーホルダーを配ったりGPSを貸してくれたりする地域もあるようです。この見守りネットワークを利用していた人では発見までの時間が平均15.8時間だったのに対して、利用していない人では平均で43時間以上かかっていました。

 両親の認知症を20年以上見てきた私は、自己防衛の手段として、月に千円前後の維持費をかけ、本人に小型のGPSを常に持たせていました。数センチの大きさですので衣服に縫い付けるなど工夫も必要ながら、使ってみると現在のGPSの精度はかなり正確で、本人が今どこにいるかを遠隔地からリアルタイムで知ることができます。不審がる親には「最強のお守り」と説明して、しまいには「お守り袋」に入れて持たせたところ、抵抗なく納得してくれました。

 「徘徊」とは意味もなく歩き回ることと辞書には出ています。しかし多くの認知症高齢者にとって「徘徊」の多くにはご本人なりの意味があることは、今や常識になりつつあります。

 私も親の徘徊を「自由散歩」と理解していました。過去には「徘徊するといけないから、出られないようにする」対応も普通だったようですが、経験上もかえって良い結果は招かないと思っています。その人なりの大切な時間を生きている高齢者の「お出掛け」欲求が過度に制限されたり、妨げられたりすることのないよう、安全には気を遣いながらも周囲で工夫したいところです。

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