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塩入り飲料・飴 塩分摂り過ぎない? ~健康情報しらべ隊③

文・堀米香奈子 本誌専任編集委員。米ミシガン大学大学院環境学修士
 高血圧と食塩摂取の話が続きましたが、今回は、この時期の素朴な疑問です。夏になると店頭を席巻する「塩入り」の清涼飲料水や飴、タブレットが、日々の「減塩」努力を打ち消す心配はないのでしょうか?

なぜブームに?
 
 飲料メーカー各社がこぞって「塩入り」を謳った清涼飲料水を発売したのは、2011年のこと。当然、「熱中症対策」を意識した商品です。それ以前も塩入り飲料はありましたが、同年6月1日に、前年の熱中症による死者数が過去最悪を記録したと、厚労省が公表したこととも無関係ではないでしょう。

 以来、毎年夏を前に新商品やリニューアル商品が発売されては秋頃に姿を消す、といった具合です。飴やタブレットも同様で、昔ながらの塩飴とは別に、夏バテ対策に食欲増進作用を狙ってクエン酸などを加えた「塩レモン味」「梅味」などが目立ちます。

 熱中症は、高温多湿な環境下で、体内の恒常性維持機能(ホメオスタシス)が破綻し、水分や塩分などのバランスが崩れて発症する障害の総称です。大量に汗をかくと、水分とともに塩分(ナトリウム)も失われます。それなのに水だけを補給して血液の塩分濃度が低下すると、低ナトリウム血症を引き起こします。足、腕、腹部の筋肉の痛みや引きつれ、震えの他、めまいや頭痛、吐き気、嘔吐、腹痛などの症状が出ます。

 対策として厚労省は、「暑さ指数」が基準値を超える場合、「少なくとも、0.1~0.2%の食塩水、ナトリウム40~80mg/100mlのスポーツドリンク又は経口補水液等を、20~30分ごとにカップ1~2杯程度を摂取することが望ましい」としています。環境省によれば、運動時は暑さ指数に関わらず水分・塩分補給が求められます。

 一般に、高齢者や子供は暑さや水分不足に対する調節機能が低く、特に高齢者は暑さを感じる機能も低下しているので、リスクは高まります。室内での熱中症発症が多いのも特徴。喉の渇きを自覚する前に、こまめに水分と、同時に塩分を補給する必要があるのです。

 こうした知識の普及も相まってか、「塩入り」商品は夏の定番となりつつある、というわけです。
 
多湿だとより危険

 「暑さ指数」という言葉がさらっと出てきましたが、馴染みがないですよね。「暑さ指数」とは、人体と外気との熱のやりとりに着目した指標(単位は℃)で、同じ気温でも湿度が高いほど数値が高くなります。つまり、砂漠のようなドライな暑さより、サウナのように蒸し暑い方が高値となります。

 これは、高温多湿だと汗の蒸発が妨げられて体温調節が困難になるため。統計的には、暑さ指数が28℃を超えると、熱中症患者が急増します(表)。
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 日常生活では、暑さ指数25℃以上では「注意」レベルとされ、運動や激しい作業時には、定期的に充分な休息が必要。ただし、例えばゲートボールなど、激しい運動でなくても、長時間になるものは要注意です。

 さらに、指数28℃以上は「警戒」レベル、炎天下は避けるべきです。美術館に行ったら外に続く大行列で、なかなか入館できない、といった状況は危険ですから、よく見極めて外出しましょう。

 自分の住む地域の暑さ指数は、「環境省 熱中症」検索すれば簡単に分かります(環境省熱中症予防情報サイト)。

本当に必要?

 では実際、「塩入り」商品にはどれくらいの塩分が含まれているのか、店頭の人気「塩入り」清涼飲料水を複数チェックしたところ、ほとんどが前述の厚労省が推奨する塩分濃度に合致していました。また、飴やタブレットでは、食塩を1粒に0.1g含むものが多く、「水とともに」食べるよう書かれています。

 ですから、熱中症リスクの高い状況にある人が、予防のためにこれらの商品を活用するのは合理的。運動時や高温多湿下での作業・労働時、減塩を徹底している営業マンが、長時間の外回りで汗だくになる場合などによさそうです。

 これに対し、空調の効いた家やオフィスで、「夏だから」「熱中症予防に」と、安易に「ながら食べ」をするのはちょっと待ってください。例えば、塩分0.2%のペットボトル飲料(500ml)に含まれる食塩量は、アジの開き1枚相当。海苔の佃煮大さじ1杯、野沢菜漬けやキムチ小皿各1枚より多いのです。塩入り飴やタブレットも、1袋に1g以上の塩分を含みます。 

 厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」(2015年版)によれば、高血圧予防には食塩は1日6g未満が望ましいところ、現状は平均9.7g。摂り過ぎの現状を考えると、高リスク時以外の状況で「塩入り」商品を利用する必要性は見当たりません。

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