文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

排尿の仕組みを知って加齢トラブルに備えよう ~大人も知りたい新保健理科㉙

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 学校で習わないことの一つに排尿や排便の仕組みがあります。もちろん中学理科や高校生物で尿や便を作る腎臓や大腸について学習し、尿管から膀胱へ、直腸から肛門へというルートを教わります。しかし、尿意や便意を感じて排尿や排便を行う過程については、取り立てて学ぶ機会がありません。

 排便については、便秘や下痢で困ることがあるため、興味を持つことがあります。しかし、排尿については、よっぽどの不具合がない限り、学ばなくても何ら日常生活に支障はないのでしょう。

 ところが更年期になって、尿漏れや頻尿、排尿困難などといった排尿トラブルが出始めるようになると、急に関心を持つようになります。

膀胱は伸び縮みする

 さて皆さん、膀胱をどのような器官だと思っていらっしゃいますか。尿が溜まっていない時も溜まっている時もほぼ同じ大きさのタンクだと思っていませんか。

 実際は少し違います。膀胱はゴム風船のように伸び縮みをします。膀胱の内側は粘膜で、外側は筋肉(平滑筋)です。尿が溜まってくると、平滑筋がだんだん緩み、膀胱は少しずつ膨んで容積を増やしています。この時段々と膀胱の壁が薄くなっていきます。ゴム風船を膨らませた時にゴムが薄く伸びるのと同じですね。

 ゴム風船の口の部分(尿道口)は、尿を溜めている時、尿道括約筋という筋肉がしっかりと閉じられ、尿が漏れないようになっています。

 膀胱に尿が300mL位溜まってくると、膀胱内の圧が高くなり、神経を刺激します。その刺激が脳に伝わり尿意を感じます。その結果、膀胱の平滑筋が縮まり、尿道括約筋が緩むことで尿道が開き、排尿できる仕組みになっています。ゴム風船が外から押され、口の所が緩んで中の空気が出ていくのと同じです。

尿道括約筋が衰える

 前述の尿道括約筋は、正式には「内尿道括約筋」と呼ばれ、尿道口を輪状に取り巻いている平滑筋です。

 実はもう一つ、これより少し下の位置で、骨盤底を貫く辺りの尿道に横紋筋も取り巻いており、こちらは「外尿道括約筋」と呼ばれます。

 外尿道括約筋は、自分の意思で締めることができます。トイレに行かなければならない状況なのに、なかなかトイレが見つからない時は、外尿道括約筋を緊張させ、しっかり収縮させることで漏れを防いでいます。また尿意がなくても、予めトイレに行っておこうと思った時は、意識して外尿道括約筋を緩めて排尿しています。

 この外尿道括約筋は、女性の場合は、加齢と共に性ホルモンが減少して骨盤底筋が緩み始めると、一緒に緩んできます。

 骨盤底筋というのは、読んで字の如く骨盤底にある筋肉のことです。骨盤の下側には骨がなく、まるで底がない器のようになっています。骨盤底筋は、この底の部分に張られたハンモックのような形状で、そのハンモックの上に膀胱、子宮、大腸などが乗っかっています。

 くしゃみをしたり、走ったり、重い物を持ったりするとお腹に圧力がかかり、それが外尿道括約筋にも響きます。これまでは何ともなかった動作でも、緩んだ骨盤底筋の場合では、尿が漏れ、失禁してしまうことが起こります。

 失禁は恥ずかしいことと思いがちなので、誰にも相談できず、外出も控えがちになります。しかし、最近では尿漏れパットの製品が増え、CMもよく見かけるようになっており、加齢と共に誰にでも起こり得る当たり前のことという認識が広がりつつあります。健康セミナーでは骨盤底筋を鍛える体操も広がっています。また、「失禁」ではなく、英語で反対の意味(禁制)となる「コンチネンス」という用語も見聞きするようになりました。独りで悩まなくてよいのです。

過活動で勝手に縮む

 失禁の原因は、他にもあります。急に尿意を感じてトイレに駆け込んだり、トイレが近くて何度も排尿したり(頻尿)、トイレのために起きる回数が増えたりといったことはありませんか。尿意があまりにも急だと、到底トイレに間に合いません。

 この原因として、膀胱の異常な収縮が考えられます。尿を充分に溜める前に膀胱が勝手に収縮してしまうのです。収縮=排尿なので、急に尿意を感じた時には、体は排尿を始めようとしていることになります。充分な量を溜めないうちに収縮してしまうため、少量の尿を何回も何回も出さなければならなくなります。

 このように勝手に膀胱が収縮する疾患を「過活動膀胱炎」と言います。収縮を抑える薬や、溜められる尿量を増やす薬によって治療が行われます。

 その他にも、男性の場合は、前立腺肥大による排尿トラブルがあります。加齢に伴う性ホルモンの影響を受けて大きくなった前立腺が尿道を圧迫、尿道が狭まり、尿の出が悪くなります。

 このように、排尿トラブルには色々な原因や症状がありますが、排尿の仕組みを知っていれば、尿道の緩みなのか、尿を溜める容積の問題なのか、尿道の狭窄なのかといったことを理解しやすく、対処もしやすくなります。仕組みを理解しないまま排尿のことばかり考えていると、日常生活が楽しめなくなり、QOLも下がってしまいます。独りで悩まないで、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けてください。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ