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水晶体は必ず劣化 せめて遅らせよう~大人も知りたい新保健理科㉒

吉田のりまき 薬剤師。科学の本の読み聞かせの会「ほんとほんと」主宰
 ノーベル賞で一躍有名になったオートファジー。オート=自己、ファジー=食べるということで、最初は、言葉通り、体内の不要タンパクを自分で食べるゴミ処理機能という印象が強かったように思います。その後、色々な報道がなされ、不要になったタンパクを分解して必要なタンパクの合成に役立てていることが知られるようになると、リサイクルというエコ的なイメージもついてきたようです。

 また今後オートファジーの研究が役に立つと期待される疾患についても紹介されるようになり、その1つに白内障が挙げられていました。

 東大医学部の水島研究室のウエブサイトにも、「オートファジーは加齢性白内障の抑制に必須である」という論文の内容が記載されています。オートファジーの働きが欠損しているマウスを使った実験で、水晶体が濁り、白内障が発症していたそうです。

 眼に入ってくる光をしっかりと網膜まで届けるためには、水晶体がとてもきれいな透明である必要があります。透明でなく濁ってくると白内障になり、かすんでみえたりぼやけたり、まぶしく感じたりします。どうやらこの透明という品質について、オートファジーが関係しているようです。

 オートファジーのお蔭で白内障にも着目してもらえることは大変ありがたく思います。なぜなら、眼の仕組みは学校教育で比較的学習しているにも関わらず、なぜ水晶体は透明なのか、なぜ水晶体が濁るのか、といったことについては教わりません。高齢になり、白内障になりかけて初めてサイトや書籍で水晶体の濁りについて知ることになり、慌てて目を守ろうとします。もし、白内障になる前に少しでも水晶体の仕組みを知っていれば、劣化は必ず起こるものと認識し、せめてその劣化スピードを抑えるように、若いうちから自分なりにできることに取り組めたのではないかと思うからです。

層状になった細胞

 さて、学校では眼の構造をカメラと比較して学習することが多く、水晶体はカメラのレンズに相当すると教わります。焦点を合わせるために、カメラではレンズの位置を前後に移動させますが、眼の場合では水晶体は横から引っ張る力を変えてレンズの厚みを変えることを学習します。

 どうもこの比較が頭に強く残っているためではないかと思うのですが、水晶体が1つの細胞で出来ているように思っている人がいらっしゃいます。実際は、細胞が層のように集まっており、何と1000層もあります。密に規則正しく並んでおり、細胞と細胞の境目もジグソーパズルのようにぴったりとはまっている構造のお蔭で、眼に入ってきた光を散乱させないのです。

 また、この細胞は一応生きてはいますが、普通の細胞とは大きく異なります。核もミトコンドリアもなく、外壁とクリスタリンというタンパク、そして水分から出来ているだけなのです。学校で学習したように、普通の細胞には核やミトコンドリアや小胞体などがありますよね。それらがないのです。もしそれらが全部含まれていたとしたら、眼に入ってきた光はそれぞれに当たって別々の屈折率によって散乱してしまいます。

 そうならないために、水晶体が作られる過程において、核が抜け、ミトコンドリアや小胞体などの細胞小器官が破壊され、細胞の外壁とクリスタリン、水分だけが残るようプログラムが働くようになっているのです。

細胞は外から内へ

 さらに、この水晶体は大変不思議なことに、外側から作られます。たとえるならば玉ねぎがよいでしょうか。玉ねぎの場合は、内側があって、その外側にどんどん出来ていきますが、水晶体の場合は反対です。外側から内側が作られていくのです。

 まず、外側に新しい細胞が出来ます。そして水晶体の内側へと押されていきます。この時に、核が抜け余分な細胞小器官が破壊されるのです。そしてまた外側に新しい細胞が作られると、古い細胞がより内側へと押されていき、どんどん内側へ内側へと押し込めていくようになります。

 生まれたばかりの時は、水晶体の中心部は硬くはないのですが、長年このようなことが繰り返されると、段々内側が窮屈になり、水分量が減って硬くなります。水晶体には血管も神経もなく、栄養は房水(角膜と水晶体の間の液)から得ているため、硬くなることで栄養も行き届かなくなります。そうなるとタンパクが変性し、規則正しい構造も歪んできてしまいます。これが加齢による白内障というわけです。

 前述のオートファジーは、水晶体が外側の細胞から作られていく過程において関与していると考えられています。水晶体の透明性という品質を維持する仕組みがもっと分かれば、白内障の治療にも役立つことでしょう。

 しかし今はまだ研究の途中です。そのため、いくら健康に気をつけていても、長生きすると水晶体の寿命の方が先になるでしょう。内側へ内側へと作られていく関係上、内側で劣化するのを自分では止めることはできません。それを十分に認識して、眼に入ってくる紫外線量を減らしてタンパクのダメージを防ぎ、タンパクの変性を抑制する抗酸化作用の働きが落ちないよう留意するなど、自分のできる範囲で日頃から眼をケアするよう心掛けたいものです。

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