医療志民の会に行けなかった患者として。

投稿者: | 投稿日時: 2009年04月12日 19:56

昨日開かれた医療志民の会の設立シンポジウム、残念ながら私は出席できませんでした(急に、というのでなく、当初から駄目だったのですが)。それでも、ニュースでの報告は非常に興味深く読みました。

ご存知いただいている方もいらっしゃるかと思いますが、私は医療者と同じ研究室で働いていました。今もまだ少し、お仕事をさせていただいています。それでも今回はそういった自分の事情もあえて捨て去って、いつも医療機関と医療関係者の方々にお世話になっているひとりの患者として、身勝手な感想をここに書いてみたいと思います。

まずは、共感できた、なるほどと思った箇所から。


●足立智和・丹波新聞記者
「柏原病院の守る会は、別に大したをことしているわけではない。ありがとうと手紙を書いたり、お友達に無闇に病院に行ったらあかんよと伝えているだけ」
⇒自分に何ができるか、具体的でわかりやすいです。

●地の文
「医療界内部のバラバラが主に見えたシンポジウムだった。・・・費用負担者まで巻き込んだ運動にしていくためには、まだまだ何段階かの質的変換をとげる必要がありそうだ」
「やはりこれから各構成メンバーたちがいかに小異を捨てて大同に付けるか、その大同に外部の人間を巻き込んで来れるかということになるのだろう」
⇒最初のほうに、パネルディスカッションのメンバーが「恐ろしく医療従事者側に偏っていた」とありますが、それは予期していたこと、現状では仕方ないことです。だからこそ、今後の会の動向が気になるところです(ちなみにその辺は、以前のエントリーでもちょっと触れていたのですが)。もちろん、今の医療がおかれた閉塞状態を考えれば、こうした動きを誰かが始めることが必要で、始めたことは、それだけで評価できること。というわけで個人的には、大いに期待したいところではあります。


次は、読んでいて引っかかったり考えたりしたこと。


●畑中暢代看護師
米国ベイラー大学の移植チームの活動資金の多くが市民の寄付により賄われ、それを得る為に外へ積極的に出て市民と交わっているといいます。

⇒気になったことが2つ。
①アメリカと違って日本は「寄付行為」が、移植チームの活動を恒常的に賄えるほどに根付いていないだろうなあ。
②日本の医療者は、それほどヒマがあるんだろうか。昨今の報道からはそうは思えない。

⇒とはいえ、考えたこと。
①それをいっちゃおしまいかしら。ロハスメディカルのワンクリック募金のように、そんな日本人でも抵抗なく、簡単にできる方法もあるかもしれない。
②やっぱりコメディカルの方たち他まで含め、医療者の数は足りてないのだろうなあ。


●長尾和宏・長尾クリニック院長
「私自身も医師会の人間だし、医師会には頑張ってもらいたいんだけど実際には非常に難しい。医師会こそchangeが必要で、やれるもんならやりたいが、そういう類のものではない」

⇒わからないこと。
この記事のここだけ読んでたら、医師会の何がいけなくて、どう変わればよくて、でもそれがどうしてできないor「そういう類のものではない」のか、よくわからない。医師会がどう変わったら、何がおきるんだろう?


●崔ヘイ(〓)哲・滋賀県立成人病センター放射線治療科部長の話。
「アクセス、コスト、クオリティのどれを選ぶのか、国民も選択の時に来ている」

⇒考えたこと。
このままでは、きっとそうなるんだろうなあ。だけど、どれかしか選べないのは恐ろしい。できることなら、税金をもっと医療に投入してもらっていいから(そのぶんは無駄な建物や道路、天下り財団などつくらないでもらって)、いままでどおりとまでは言わないから、3つのバランスのとれた状態にもっていかれないんだろうか。


●同上
「我慢する所を我慢しろと伝えるのは、政治家とマスコミの仕事」

⇒考えたこと。
そうかもしれないけど、それだけじゃ、やっぱり駄目かなあ。政治家は票が欲しいし、マスコミは視聴率が欲しいし。その思惑とうまく重なるような表現方法があればいいのかな(医療ドラマとか?)。さっきの話ではないけれど、やっぱり身勝手なコンビニ受診を防ぐには、ある程度コストなどによるコントロールが必要かなあと(人は易きに流れるもの、しかも身勝手なので、駄目と言われても、みんながみんな「ああ、我慢しなきゃだな」なんて素直には応じないだろうと)。それも、低所得世帯も受診をためらわずに済むような措置とかも同時にあって欲しいですが。


●小松秀樹・虎の門病院泌尿器科部長
「たとえば先ほどの大谷さんの話を聴いていて違和感があったのは、禁煙すると医療費は減るかということ。喫煙に起因する疾病は減るだろうが、その分長生きするときっと別の病気にかかるからトータルでは医療費が増えるかもしれない。そういうことはデータに基づいて議論しないと間違える」

⇒思ったこと。
議論の進め方としては非常に正しいのだけれど、そそっかしいごく一般の人だったら、ちょっと読んで早合点しかねないかなあ。小松先生は別に「禁煙しても結局トータルで医療費が減らなければ、“禁煙など意味がない”」などとは全くおっしゃっていないのだけれど、そう間違う人がいないとも言い切れない? ちなみに私の意見としては、禁煙でそのぶん長生きして別の病気になることは、かなりあっぱれなこと。それで医療費に跳ね返るなら、その分くらいは国民みんなで負担したい。そういったことについて、やっぱり小松先生のおっしゃるとおり、データをもとに国民的な議論を行い、コンセンサスを形成する必要がありますね。


以上、勝手な感想を書いてみました。
ひじょうに荒削りで、初歩的な内容で申し訳ないですが、一方、この程度のことに誰かがわかりやすく答えてくれないかなあ、という思いもあります。それくらい垣根が低くないと、普通の人は途中からとびこむ気になれないし、ついていかれないかなあと。なんて、自分をはなから“普通の人”に加えてしまって、すごくずうずうしいのですが。


この話、すでに長くなってしまったので、しつこいのは承知ながら、明日ももうちょっと書いてみたいと思います。

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コメント

概ね同感です。

>KHPNさま

すごくシンプルな視点で会の報告を読み、書いてみたのですが、少しでもご共感いただける部分があってよかったです。

ちなみに“概ね”というところ、もう少し伺ったら別のご意見や、もっといい表現等が出てくるのでしょうか?そういうことでしたら是非お聞かせください。宜しくお願いいたします。

堀米さま

>ちなみに“概ね”というところ、もう少し伺ったら別のご意見や、もっといい表現等が出てくるのでしょうか?そういうことでしたら是非お聞かせください。

細かい違いを述べればそれこそ重箱の隅をつつくようなレベルの話になりますのであまり建設的でないようにも思えます。概ね同意見は殆ど同意見として解釈していただければと存じます。

一点だけ個人的な興味から、膵島(ランゲルハンス島)移植の実際とベイラー大学のそれとをウェブ上ではありますが調べてみました。


まず基本的な部分の押さえとして、膵臓移植のなんたるかから。

膵臓移植のページ
http://www.med.osaka-u.ac.jp/pub/surg1/www/general/rinshou/p_TX.html

先天性糖尿病(I型糖尿病)の患者さんはインスリンの生産・分泌が生まれつき低いため子供の頃からインスリンの自己注射を余儀なくされ、それでも細動脈が糖尿病の病態に晒されてしまい、若くして糖尿病性腎不全→透析という経過を辿ってしまう方が多いようです。

これを解決するためには腎臓を移植すると同時に体内で唯一インスリンを生産するランゲルハンス島(膵島)を持つ膵臓を移植するのが膵腎移植術です。
ただし、膵臓は膵液(リパーゼ)を生産、分泌するので、これをうまく体外に出す必要があり(でないと体が溶ける)、小腸にY管を作ってそこに吻合するような術式が行われるのでしょう。

膵腎移植術は日本国内では既に移植医療として確立しており保険点数もついているようですね。(K709-5 同種死体膵腎移植術 108,600点)

膵腎移植術のような大きな手術をせずに、インスリンを生産する膵島だけを移植できないかということはどなたも考えるわけで、カナダのアルバータ大のグループがそれに成功し、2000年頃から普及し始めたようですね。

膵島移植のページ
http://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/~transplant/islet/islettx.html


日本では膵移植認定施設を中心に膵・膵島移植研究会が以下のような報告を出しているようですね。

膵臓移植報告
http://www.asas.or.jp/jst/pdf/reports/42-5_p433-438.pdf

膵島移植報告
http://www.asas.or.jp/jst/pdf/reports/42-5_p439-447.pdf


ベイラー大については、移植はつい最近まではAdvancing Medicine(先進医療)として位置づけられていたようですね。カナダ方式の膵島移植を臨床研究として行っている(いた)とお見受けしました。

ベイラー大膵島移植研究
http://www.baylorhealth.com/AdvancingMedicine/AreasOfResearch/Pages/Transplants.aspx

それが、この4月からFDAの認可が下りたということなのでしょうか、研究的な医療からもう一段階進んだ位置づけになっているように思えました。特徴的なのはinflamed pancreas(膵炎などを起こした膵臓)を使用するということのようで、必ずしも死体のドナーを必要としないということなのでしょうか?よくわかりませんが。

ベイラー大膵島移植
http://www.baylorhealth.com/SpecialtiesServices/Transplantation/isletcell/Pages/Default.aspx

以上はこの活動を推進していると思われる先生のHPの情報から私が何となく想像して繋げたものであって正しい解釈なのかどうかはわかりません。(誤っていたらお許しください)
http://www.m-islets.com/index.html

ベイラー大のAdvancing Medicineでは被験者募集のコーナーがあり、あくまでも私の想像ですが、件の看護師の方が寄付金集め云々と仰ったのは、このようなプログラムで集めた被験者に対し、実験的医療を行うための資金集めという意味合いなのではないかなと。つまり、普通の医療ではなく、まだ臨床試験レベルの医療に対する資金集めなのであって、これを一般医療全てにに演繹して考えるのはちょっと違うのではないでしょうか。


なお、日本の診療報酬に比べてベイラー大での医療費がどの程度なのか、直接、膵島移植術を比較することが出来れば良かったのしょうが生憎、関連サイトが見つからず、骨髄移植でのそれを発見しましたので以下にお示しします。


診療報酬(2008年)
K922 骨髄移植
1 同種移植 57,200点
2 自家末梢血幹細胞移植 30,000点
3 同種末梢血幹細胞移植 55,000点
4 自家造血幹細胞移植 25,000点


ベイラー大骨髄移植
http://www.marrow.org/PATIENT/Plan_for_Tx/Choosing_a_TC/US_NMDP_Transplant_Centers/Detailed_Center_Information/tc_idx.pl?ctr_id=536&p_src=state


>KHPNさま

情報提供をありがとうございました。参考URLなどのぞかせていただきながら頑張って理解していたら、すっかりお返事が遅れました。

>実験的医療を行うための資金集めという意味合いなのではないかなと。つまり、普通の医療ではなく、まだ臨床試験レベルの医療に対する資金集めなのであって、これを一般医療全てにに演繹して考えるのはちょっと違うのではないでしょうか。

なるほど、そういうことだったのですね。確かに一般医療全てにそのまま演繹するのは難しいかもしれません。

ただ自分で突っ込みを入れておきながら言うのもなんですが、寄付につなげるかどうかは別として、医師の方々が一般と交流していらっしゃる光景は、ちょっと好感がもてる状況だなと思います。日本の医療はやっぱり敷居が高いのだなと。←それがかつては良い患者・医療者の関係をもたらしていた部分もあったのでしょうね(逆に、明らかに単純な医療ミスでも泣き寝入り、といった好ましいとはいえない点もあったと思いますが)。

そう考えると新しい患者と医療者の関係の構築(再構築というよりも。)のヒントになる気はしてきました。

堀米さま

>参考URLなどのぞかせていただきながら頑張って理解していたら、すっかりお返事が遅れました。

お疲れ様でした。色々とレスポンスしなければならない担当案件が多いので大変でしたでしょう。お察しいたします。


>寄付につなげるかどうかは別として、医師の方々が一般と交流していらっしゃる光景は、ちょっと好感がもてる状況だなと思います。

そうですね。ただ、渡米している日本人の医師やナースの多くは免許や査証の関係上、業としての診療行為ができないので、研究やサポート業務に回ることが多いと聞いたことがあります。

個別には存じ上げないので何とも言えませんが、このベイラー大学で膵島移植のコーディネートなさっている日本人の方々は、ローカルの医療資格免許などをお持ちで、通常の診療のシフト(病棟、外来勤務や当直、夜勤など)に毎日入っていらっしゃる方々なのでしょうか?

もしそうではなく、コーディネートを専業でなさっているとするのなら、fund raisingが活動の主体になるということは米国の場合には十分あり得るような気がしますが...

>KHPNさま

>fund raisingが活動の主体になるということは米国の場合には十分あり得るような気がしますが...

やはりそれもお国柄、ということでしょうか。日本ではを病院内でfund raisingをメインに活動なさっている人々や部署と言うのは聞いたことがありませんね。日本でもそのような試みが先駆的に行われたとして、成功するものでしょうか。ちょっと想像がつきませんが・・・。

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