新型インフル ダメージを受けるのは経済だけじゃない

投稿者: | 投稿日時: 2009年06月15日 05:21

前回、新型インフルエンザによる経済損失について書かせていただきました。しかし、新型インフルエンザによる被害は、経済ばかりではありません。感染による直接的な健康被害は当然のことながら、それだけにとどまらないようです。

感染症は「正しく怖がって」―新型インフルと「心のケア」
医療介護CBニュース 6月14日


上のニュースで初めて、新型インフルエンザ感染者の出た大阪府内ほかの高校やその生徒たちが、根拠に乏しい偏見を受けている様子を具体的に知りました。


【「防護服を着た人たちに突然、連れ出されることになった生徒や、家族全員が1週間、自宅で缶詰めになった生徒もいた。これを思うと言葉にならない」。同校が「ウイルスをばらまいている」といった誹謗中傷も後を絶たず、学校関係者のタクシーの利用や、制服のクリーニングを断られることもあったという。】

【「生徒が近所で『関西大倉学園の生徒だ』と言われるような状況だった」という。感染者が出たほかの学校も訪問したが、校長はじめ学校関係者や生徒の家族の多くが「誹謗中傷」されている状況。ある学校の校長は、心労で声が出なくなってしまっていたという。】

【学校の再開前には、校内の消毒もした。「専門家から、(ウイルスは既に死滅しているので)消毒の必要はないと聞いており、意味がないということも分かっていた。しかし、こういう風潮の中では、やらざるを得なかった」。】


未知の感染症に対する不安は分かりますが、必要以上に恐れることは意味がないばかりか、多くの人を謂れのない非難や中傷、差別に陥れることになるのですね。国内で感染が見つかった当初の段階で、その拡大を防ぐべく感染者やその集団について周知徹底を図るというのもわからなくはありません。しかし、それは人権侵害とも隣り合わせだということを改めて認識した思いです。その有効性は個々の病気の性質によっても大きく異なり、慎重になる必要があります。今回のインフルエンザで言えば、感染者の発見までの過程に多くの疑問が付きまとい、潜伏期間も考えると、見つかった頃には既に感染が広がっていた可能性も大きいことから、行政のやりかた、過熱報道、市民の過剰反応、どれをとっても反省すべき点があるように思います。


なお、感染者発見までの過程と現場の混乱は、以下の記事が興味深く伝えています。

「まさかの豚」 現場は 新型インフルエンザ検証
朝日新聞 2009年6月13日


一方、インフルエンザ以外の原因で発熱があり、医療機関を受診しようという人が、通常通りの受診ができずに症状が悪化したという声も聞かれます。

《声》 インフル対応で娘は肺炎に
朝日新聞 2009年6月13日


発熱外来の設置に際する医療側の負担や混乱もさることながら、インフルエンザ以外の通常の受診者がこうした影響を受けた例は、おそらくこれにとどまらないのではないかと想像します。そもそも発熱外来を受診するか否か、その判断のために一般の人がまず相談する「発熱相談センター」での対応の杜撰さは、以前も書かせていただいたとおりです(「発熱相談センターに実際に電話してみた」)。新型インフルエンザに感染してもしなくても、行政と現場の足並みがまったく揃っていないことで、結局は患者である私たち一般市民が割を食うことになるのですね。


以上、新型インフルエンザに感染しなくても、ダメージを受けている人たちがいることを知ったのでした。おりしもWHOが警戒レベルを「フェーズ6」に引き上げたばかり。日本国内の感染者も着実に増加を続けています。秋から冬に感染が本格化するのではと考えた時に、感染者への対応や経済的損失ばかりでなく、こうした部分への影響も認識されるべきですよね。行政の適切な措置と、医療機関や一般市民の冷静な対応が必要なのは、まさにこれからなのだと思います。

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