救命センターとERの違いって?

投稿者: 熊田梨恵 | 投稿日時: 2009年06月16日 01:32

ロハス・メディカル6月20日発行号の裏表紙に、こんな問題を出してみました。
 

【問】
「救命救急センター」と「ER」、どこが違う?
 
①同じ。呼び方だけ
②受け入れる患者
③スタッフの職種

 

答えは、②です。
 
簡単に言うと、救命センターは集中治療室への入院が必要な重症の救急患者を受け入れて高度医療を提供する施設、ERはどんな救急患者でも受け入れて初期診療を提供する施設と言えます。ただ、医療提供のルールや病院内の運用の仕組みが根本的に違うため、両者は単純に比較しにくいものです。
 
 
もう少し詳しく解説します。
 
■救命救急センターとは
日本では、救急患者を受け入れる施設には「救命センター」「ER」「新型救命センター」など、色々な名前が付いていますが、普通に生活しているとその違いはなかなか分かりにくいものだと思います。
 
患者さんの状態によって運ばれる医療機関が変わってきます。
大きく分けると次のようになります。

1次救急医療機関・・・処置後に帰宅できる程度の状態(軽傷)
2次救急医療機関・・・一般病棟に入院する程度の状態(中等症)
3次救急医療機関・・・集中治療室への入院が必要な状態(重症)、高度医療が提供される
もっと詳しく知りたい方はこちら
 
この、3次救急医療機関に当たる施設のうち、厚生労働省が定める要件をクリアした病院が「救命救急センター」と呼ばれています。
「救命救急センター」は、施設の機能に付いている名前というよりも、制度上での呼び名という方が適当かもしれません。
 
厚労省は、救命救急センターに次のような運営方針や要件を課しています。
▽原則として、重症及び複数の診療科領域にわたるすべての重篤な救急患者を24時間体制で受け入れる。20床以上の専用ベッドを有し、集中治療室(ICU)や脳卒中専用病室(SCU)、医療機器などを必要に応じて設置する。医師や看護師など必要な職員を確保する
▽原則として1、2次救急からの患者を24時間体制で必ず受け入れる
▽センターでの治療後に急性期の状態を脱した患者については、積極的に後方病床に転床させて、センターの空床を確保する
▽医学生、研修医、医師、看護師、看護学生、救急救命士への教育を行う
 
救命救急センターには細かい評価項目が定められていて、その得点数に応じて補助金の額が変わります。来年度から評価項目が厳格化されますが、医療費抑制をねらったものとの説もあります。
 
この救命救急センターにも色々な種類があります。
 
●高度救命救急センター・・・救命救急センターに搬送される患者のうち、特に広範囲熱傷、指肢切断、急性中毒等の特殊疾病患者を受け入れる役割を担う
●新型救命救急ンセンター・・・2006年度からスタート。10-19床規模で、救命センターを補完する役割を担い、母体となる3次救急病院がある
 
 
 
■ERとは
では、一方の「ER」とは何なのでしょうか。
 
ER(Emergency Room:救急治療室)では、基本的に全ての救急患者に対して、ERで働くER専門医が救急初期診療を行います。
患者に入院が必要になった場合、ER専門医が担当科に振り分けますが、その後の入院や手術には関わりません。
またERには、「トリアージナース」と呼ばれる看護師が配置され、患者の重症度や緊急度を選別して優先順位の高い患者から診療を実施するように振り分けている場合もあります。
ただ、日本ではERに関して決まった定義はなく、こうした初期診療を提供する医療機関も細かい部分の運用は異なっています。
 
 
日本救急医学会によると、(HPより抜粋
ERはemergency roomの略で,救急室,あるいは救急外来を意味する言葉である。近年,本邦では,従来の救命救急センターを主体とした3次救急医療に対して,ER型救急医療が注目されるようになり,「ER」がER型救急医療の意味に使用されることが多くなった。本来,ER型救急医療は北米型救急医療モデルのこと

 
とあります。
救命センターが制度上の名前であるのに対し、こちらは施設の機能についている名前と言えます。
その機能として学会は次を示しています。(同じページから抜粋)
 
▽重症度,傷病の種類,年齢によらずすべての救急患者をERで診療する
▽救急医がすべての救急患者を診療する
▽救急医がERの管理運営をおこなう
▽研修医が救急診療する場合には,ERに常駐する救急専従医(attending emergency physician)が指導をおこなう
▽救急医はERでの診療のみを行い,入院診療を担当しない
 
米国の救急医療を舞台にした人気の海外ドラマ「ER-救急救命室」がこの北米型ERですね。
 
さらに同学会が、「北米と医療体制の異なる本邦では、厳密に北米型救急医療モデルを遂行している医療施設は少ない。このため、医療施設によって上記の一部を満たすさまざまな診療形態がER型救急医療と呼称されている」(HPより抜粋)と指摘するように、国内には様々な形のERが存在しています。
例えば東京には、石原慎太郎都知事が構築に力を入れた、どんな患者でも受け入れる初期診療を行う救急診療科と、救命センターを併設した「東京ER」が都立病院に設置されています。
 
厚生労働省は昨年度、ER型救急のモデル事業を全国的に展開しようと検討しましたが、いつの間にかその話は議論から消えてしまい、先送りされています。
救急病院を拠点化する議論についても、資源の集約化や効率化という観点から賛成する意見もあれば、厚労省の病院に対する規制強化につながるとして反発する声もあり、議論は尽きません。
 
■地域に合わせた医療提供体制の重要性
昭和大学病院の救命救急センター長を務める有賀徹氏が、厚生労働省の検討会で今の地域医療を「ガラス細工」と表現し、どこの地域医療も現場の医療者たちの努力によってかろうじて保たれている状況だと指摘していました。このため、国による一律の施策を押し付けるのではなく、地域の実情に合わせて少しずつ補強していくことが重要だとのことです。
 
一方、救急医療機関にも色々あり、野宿者や薬物依存の患者など、いわゆる「ブラックリスト」の患者は受け入れず、未収金のリスクが低く、診療しやすい患者を優先的に受け入れる2次救急もあるとも耳にします。そのために困っている別の救急医療機関があるとも。
 
私は東京都墨田区に住んでいますが、家から徒歩数分の所に2次救急病院があります。
このため、ほとんど毎日救急車のサイレンの音を聞きますが、特に隅田川花火の夜はよく聞こえて、患者側のモラルについて考えたことも思い出します。
 
現場で働いておられる医療スタッフの方、救急隊の方々に頭が下がる思いになりながら、私自身も明日何かの事故に遭うかもしれない身。
自身に何ができるのだろうと思う日々です。
 
すみません、クイズ解説のつもりが最後はただのつぶやきになってしまいました。

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コメント

ER型救急は非効率だと思う。
だって、軽症から重症まで全て診るには、重症まで診れる高度に訓練された、そして能力のある医師とスタッフ、設備が必要です。そこに、コンビニ型の軽症患者が多数訪れ、それらも診ないといけない。これを非効率と言わないでなんと言うべきか。
それに、後方で支える一般診療科のスタッフも大変だろうなと予想します。
どっちも疲弊するだろうと。
日本のような医療資源に乏しい、そのくせ要求水準だけは高いというような社会には無理じゃないでしょうか。東京のような、日本で一番医療資源の豊富なところでさえ、はたして機能するかどうか怪しいもんだ。

厚生労働省というミニ社会での用語定義と、医師や医療業界というミニ社会の中での用語定義の違い。

この2つの世界での用語定義(用語の使い分け)を、医療を受ける利用者も知るべきだと言われても、それぞれのミニ社会の特殊言語体系に馴染みの薄い1億3千万弱の国民多数にとって、迷惑というか知識の混乱が増すだけというか・・・。

医療を受ける患者としては、看板の文字がERと書かれた施設が増えた方が良いのか、それとも救命救急センターと書かれた方が有り難いのか、或いはどっちも増えた方が幸せなのか、言葉の定義の違いには大した重要性を感じ得ないでしょう。

限られた医療の人的資源を如何に効率的に活用するか、その為にはこの両者の使い分けが重要だと言われても、非行政職や非医療者の国民多数は、医療資源を拡大させれば良いのでしょうという方に意識が向いてしまいがち。そして費用や財政負担や過大期待という意識が薄いのが国民多数の習性ですから・・・。

熊田編集長の問題意識を鼻先で挫こうというつもりではありませんが、ミニ社会同士の言葉定義の違い、そしてそのミニ社会と多数社会での意識のズレというのは、重箱の隅のような虚しさを覚えます。

>法務業の末席様
いつも貴重なご指摘ありがとうございます。
医療というムラ社会の、外から見れば「ん?」という所に興味を持ってもらうために
どうすべきか色々試行錯誤しております。
ご指摘ありがたく承りました。
引きつづきどうぞよろしくお願い申し上げます。

ER型救急、ICU型救急(救命センター)両方での勤務経験があります。

>ER型救急は非効率だと思う。
見学されてみてはいかがですか。

>軽症から重症まで全て診るには、重症まで診れる高度に訓練された、
>そして能力のある医師とスタッフ、設備が必要です。
>そこに、コンビニ型の軽症患者が多数訪れ、
>それらも診ないといけない。これを非効率と言わないでなんと言うべきか。
スタッフは連絡の取れるところに優秀なスタッフが一人いれば、
後期レジデントと初期レジデントで十分です。
重症といっても初期アセスメントと初療ができればいいのです。
設備も普通の総合病院レベルで十分。
(ナースが優秀だとたしかに助かりますけど)

>後方で支える一般診療科のスタッフも大変だろうなと予想します。
>どっちも疲弊するだろうと。
私がいた救命センター病院では、
当直帯に来た、頭部のナートを脳外科の部長がしたり、
しょぼい外傷を外科スタッフがみたり、
中耳炎を眼科専門医がみたり。
こんなのはすべて初期研修医で十分です。
ただ、頭部外傷のCTをとるかどうかの判断、最低限の読影、
外傷の場合はプライマリーサーベイができるかどうか、
発熱患者のピットフォール、それを知っておく必要がありますが。
ただ、それは初期研修で十分に身につくものです。

むしろ、深夜に来た発熱の小児をつれてきたお母さんに、
共感的に接してあげて、
発熱は基本的には救急にならないことを説明してあげれば、
コンビニ受診の抑制につながることさえあると思いますよ。
開業医の先生方は昼間は忙しいですし、
再来させないといけないインセンティブもあるでしょうから。

私はICU型救急の経験、というかそれが充実されだした頃の者です、ER型は経験がない。
あの鳥取(だったかな)の破綻はER型破綻の典型例のように見える。

もと救急医先生の主張は、ER型救急が非効率っての、そのまま指摘されているような感じがする。

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